単発 | ナノ



たまのものもの




あれ? 今日部活だろ、行かねぇの?
あー……俺、水泳部やめたから
は? なんで?
なんかさー……うちの水泳部、ヤベー噂よく聞くんだよ
は? なに? どんな噂?
いや、だからさ、水泳部は「そういう」先輩ばっかり、っていうやつ


そいつは中学からの水泳部仲間で、俺と同じく水泳強豪校であるという理由でこの高校を選んでいた。俺はそいつのことを裏切り者だと思った。どんなにつらくとも、厳しくとも、好きなことにのめり込んで高みを目指していく仲間だと信じていたのに。まさかそんな、低俗な噂に揺さぶられて簡単に諦めてしまうだなんて。


俺は強豪校で記録保持者の先輩たちに丁寧に指導してもらえるのであれば、それほどうれしいことはない。


「ほら佐々木くん、こないだ言ったこともう忘れちゃったの?」
「ん……っ、ん……」
「もっと舌ちゃんと動かさないとだめって教えてあげたでしょ。はいもういっかい、お口ちゃーんと開けてセンパイのおっきーのナメナメして?」

ロッカーに背中を預けて立つ香椎先輩の足元にしゃがみこんだ俺は、ぴっちりとした水着をずらしあらわになった性器に慎重に舌を這わすも、いまだ先輩を納得させることができない。

「ほら、くわえて頭ごと動かしてみな」
「ん、こ、こぉでふか……」
「そうそう、んで、もっと奥までちゃんとくわえこんで」
「んぐ、ぐ……っ」

口内を満たす異物がさらに成長しながら奥まで入り込んでくる。なにもせずとも涙が浮かびそうになるが、部活中に課せられる相当な運動量の過酷な練習によって鍛え上げた精神力は、ここでも役に立つのだった。

「なんかさー、もっとやらしい感じにできない?」
「んぐ……っ?」
「音立てるとかバキュームとかさ、そういうAVっぽいのやってほしーなー」

香椎先輩はねだるとき、俺の頭を撫でるくせがある。だから俺は逆らえなくなってしまう。強要、恐喝、その他の不健全なものに脅かされれば、俺ももう少し強気になれるかもしれないのに。

どうやって香椎先輩の興奮を煽るべきか考えていたそのとき、背後でドアが開く音がした。背筋が寒くなり、先輩の性器をくわえるのをやめて更衣室の入り口を振りかえる。

「よお」
「おー、おつかれ」
「はは、お前またやってんのかよ」
「んー。だって佐々木くんなかなか上手になんねぇから、指導してやってんの」

入ってきたのは武山先輩という、香椎先輩の友人だった。先輩とおなじ、腹筋の引きしまった背の高い人で、モテる。二人とも廊下を歩くだけで女子たちが騒ぎだすようなタイプだ。

「武山ぁ」
「んー?」
「お前も来いよ」

香椎先輩が手招きをする。武山先輩は笑いながら持っていたスポーツバックを下ろすと、ゆっくりと俺に近付いてきた。見知った背丈が、その瞬間だけ狂気じみて見える。


「ほら佐々木くん、お口とめてちゃだめでしょ?」


頬をぺちぺちと叩かれ、見上げた香椎先輩の瞳はさきほどよりもずっと興奮していて、俺はますます逆らえなくなるのだった。目の前で揺れる腰が次の行為をうながすので、俺は大人しくくわえこむ。

「ん、ひゃ!」

そのとき、とつぜん脇腹を指が伝っていき、突然のこそばゆさに思わず声が出てしまった。振り返ると、武山先輩が俺の身体に触れていた。

「はは、佐々木くんかわいい声出たね。武山の指そんな気持ち良かったの?」
「ち、ちが……驚いて……!」
「香椎、お前座れ」
「あいよー」

香椎先輩はずるずると座りこみながらも、俺の頭を撫で行為をつづけさせる。床に腰を下ろした香椎先輩の性器を舐めるためには、うつぶせて頭を低くしなければならない。苦しい姿勢にならないために、腰だけを高く持ちあげる必要があった。

「ん、あっ!」

ふいに、ちいさくすぼまった部分を下着越しにぐりぐりと触られた。今度は振り向かずとも、性器をくわえながら理解できた。武山先輩が後ろから俺に触れてきているのだ。とがめるべきなのか悩んでいるうちに水着を下ろされ、ほどなくして太い指がもぐりこんできてしまう。

「ふっ、んあ……っ」
「ほーら、お尻きもちいのは分かるけど、ちゃんとやってね」
「んぐ、ぐっ……」

香椎先輩は、俺が武山先輩に気をとられる瞬間をあっさりと見極める。快感に溺れそうになるやいなや、頬を小さく叩かれいつのまにか性器を離してしまっていたことに気づいた。

「もういっかな」
「いんじゃね、佐々木くんも慣れてきたでしょ」


不穏な会話が振りかかり、身構えるより先に、そこへ熱さが触れる。


「んあああっ!」
「あー……佐々木くんのナカあったけー……きもちい……」

武山先輩に貫かれると同時に自分でも驚くほど高い声が出た。きっと、二人の会話だけで俺の承諾もなく強引にそのときを決められてしまったことへの、無意識下での反抗でもあったのだろう。

「ほら、声出したら他の人にばれちゃうよ? お前らなにしてんだー、って顧問が飛び込んできたらどうすんの? えっちなところ見つかりたいの?」
「んあっ、ぅん……あっ!」
「大人しくして? 自力じゃできないなら口あけて」
「もがっ……!」

すぐさま香椎先輩の声が降り注ぎ、油断していた口内に強引に陰茎を押しこまれてしまう。それは今までのどの時よりも苦しく、抗わずには涙ばかりが溢れるが、以前叩きこまれた「歯ァ立てたら承知しねぇよ?」という先輩の忠告を、俺は脳より先に身体で覚えてしまっていた。

「武山ぁ、俺先にイっていい?」
「ん……いんじゃね」

ふいに陰茎を引き抜かれ、驚いて見上げた香椎先輩は、興奮の紅みが差す肌と動物のように欲の率直な目を持っていた。そしてはあはあと息を荒げながら俺の顔の目の前で唾液にまみれた陰茎をガシガシ擦り、俺の頬に向けて射精をした。

「んぁ……っ」
「はは、佐々木くんお似合いだねー」
「……なあ香椎、俺もイっていいか」
「あー悪ぃ悪ぃ」

頬を伝っていくぬるく臭い精液に思考力をあやふやにされている内、背後の武山先輩が余裕なく呟いた。俺ではなく香椎先輩が答えてすぐ、武山先輩がそれまでとは比べ物にならないほど激しい動きで俺の奥をゴリゴリ突きはじめた。俺は思わず目が飛び出そうな激しさの中で、子供のような降参を掲げてるしかない。

「あっ、あっ、やだっ、やだ!」
「やならなんで辞めないのー?」
「だな、毎年コレが嫌になってやめてく一年、いっぱいいるのに」
「佐々木くんは根性あるよねぇ」

精液を浴びたまま悲鳴のような喘ぎを繰り返す俺を、香椎先輩は悠々と眺めて挙句嘆じさえもする。武山先輩は途切れながらそれに答え、しかし腰だけは止めずになおも奥ばかりを突くので、俺は気を抜いた瞬間押し寄せる波に飲まれてしまう。

「ひ、ひあ、あっ!」

自分がどこにいてなにをしているのか判断できず学校も勉強も水泳さえ含まれるすべてのことを忘れ叫び、気づくと床に精液をぶちまけていた。達したあとも節々は痙攣して、今にも二度目の頂点を迎えるのではと思うほど強い余韻に震えていると、香椎先輩に再び頬をぺちりと叩かれた。

「なにへばってんの佐々木くん」
「ふ……ぁ……?」
「武山にしかお尻貸さない、とかそんなわけないよね?」

そうだ、口も尻も何度つかっても、先輩たちを満足させることはいまだにできない。五歳になる夏、水泳教室に通いはじめたときには「佐々木くんは物覚えがいい」と言われたのに、俺はこちらの方面では劣等生らしい。

いまだ精液でべたついた汚い頬を両手でつかまれ、強引に顔を上げさせられた。

「次は俺の番」

すぐそこにある香椎先輩のひそやかな笑顔が、まだ水に入っていない俺の身体を芯から冷やす。


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「じゃ、俺ら先行くから」
「佐々木くんもすぐ来いよ」

それぞれ気が済むまで射精し、処理も済ませた先輩方は更衣室を出て行ってしまった。俺の身体にはまだ鈍痛と倦怠感が張り付いていて今すぐ眠りに落ちていきたいが、気力だけで強引に断ち切って更衣室のドアを開け、先輩に続いて熱いアスファルトを踏む。

「香椎先輩、武山先輩、今から部活ですかぁ?」

ふいに響いた華やかな声の方へ目を向けると、同じクラスの女生徒二人組がフェンス越しに件の先輩たちへ声をかけていた。

「うん、そうだよー」
「終わるまで待つんで、一緒に帰ってもらえませんか?」
「あー、でもインハイ前で練習長引いちゃうし、先帰っていいよ」
「じゃあ、休みの日に遊びに行ってください!」
「ごめんねー、休日も部活あるんだ」
「そうなんですか……お忙しいんですね……」

女子の声はよく通る。シャワーを浴びている間にも、水音を障害ともせず彼らの声が遠慮なく耳に入ってくるので憂鬱になった。

「出来の悪い後輩を指導しなきゃいけないからね」

プールサイドへ戻るとき、香椎先輩が少しだけこちらへ視線を流したのに気づいた。それ以上言葉を聞きたくなかったので、飛び込み台に立ち、まっすぐに水に飛び込んだ。しぶきが上がり、冷えた水が素肌を撫でる。

水は胸の奥に残る熱を冷やし、心を穏やかにさせる。すべての感情を浄化し、迫るインターハイで結果を出すために、俺は真剣に泳ぎはじめるのだった。









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