単発 | ナノ



ひみつのカランコロン



初対面から可愛いと思っていたクラスメイトと、晴れて恋人同士になり数ヶ月。甘い苦痛にじくじくと蝕まれる日々だった。

「これ、なに?」

今日も変わり映えのない平和な一日として過ぎ去るはずだった。起床、学校に行き、授業を終わらせ柚希と共に帰宅する。さりげなく家に誘って、帰り際にいつもみたいにキスが出来たらいいなあ、そう思っていた。

どこまでも平凡な俺は、柚希がまさか、部屋の隅に転がっていたそれに目を留めるだなんて思ってもみなかった。隠しておけばよかった、という後悔と、余計なことをした友人への思いが同時に湧き上がり言葉も生まれなかった。


「ねー、これなんなの、あきちゃん」


それは昨日友人宅へ遊びに行き、柚希とのことをノロケた際に渡されたものだった。


「あーもう柚希がかわいい」
「出たリア充」
「いやもうやばいよーどうしようかわいいよあの子」
「あーそーか良かったな。セックスした?」
「……お前デリケートな話題ぶちこんでくんじゃねぇよ……!」
「あーまだだったか。すまん」
「すまんじゃ済まねぇぞ、こっちはしたくてしたくてしょうがないけど傷つけたくねぇからやっとの思いでガマンしてんだからな!」
「悪ぃ悪ぃ。いいもんやるから」
「何いいもんって」

散らかった部屋でポテトチップスをつまみながら話していると、ふいに友人が立ち上がりベッドの下からそれを取り出した。

「これでセックスできないつらさを癒したらいい」


それは、いわゆる、オナホール、という代物だった。


「ねぇあきちゃん、これなに?」


そして持ちかえったそれは今柚希の掌に収まっている。社会の仕組みなど一切知らなそうな、無垢な柚希の右手に、似つかわしくない小さな魔物。かわいいかわいい柚希は本当に、それを見たことも聞いたこともないのだろう。しげしげと様々な角度から眺め、正解を探しだそうとしている。表面には、商品名さえ描かれているというのに。

「なに、ねー、これなんなのー?」
「ゆ、柚希は知らなくていいよ……」
「なにそれ? 俺のことばかにしてんの?」
「し、してないよ、そうじゃなくて」

柚希は隠しごとという不安材料について、正直に不機嫌になっていく。しかし正直に話したところで、俺の隠された欲求を知った柚希はどの道不機嫌になると分かっているので、俺は口ごもるばかりだ。

「……柚希に、引かれるのが怖いだけだよ」
「なんで? 引かないよ」
「……ほんと?」

そのとき、頭の中で変化があった。ぷつんと切れるのではなく、むしろ冷静に、俺は、理性を失った。

腕を伸ばし、柚希の腕を掴んだ。長座した自分の膝の中に、少々強引に柚希を招くと、柚希は不安げに俺を振りかえった。

「え、な、なにするの」
「口で説明するの難しいから、これの使い方教えてあげる」
「え、え?」

俺は後ろから柚希を抱え込み、制服のベルトに手をかけた。柚希の顔色が変わった。

「ちょ、や、やだ」
「やだ? じゃあ説明できないや」
「……」
「……どうしよっか」
「……つづけて、いいよ……」

制服を脱がしかけたとき焦っていた柚希が、俺の問いかけに頬を染めてうなずく。冷静な状態なら、噛みしめて保存して何度も思い出してにやけるような変化だったのに、俺は完全に沸騰しきっていた。

俺は片手でオナホールをもぎとりながら、もう片方の手を下着の中につっこんで柚希の性器を握りこんだ。

「え、ちょ、な、なにするの?」
「だから、これのつかいかた教えるんだって」
「え、ちょ……あっ」
「これに、柚希のさきっぽいれてみよう」

突然はじまった行為の序盤、もちろん、柚希は勃起していなかった。だからこそ腕の中に閉じ込め、性器をしっかり握りこんで、そこに意思など持たせる暇もあたえずに勃たせた。柚希は困ったように細切れの喘ぎを漏らしたあと、ようやく固くなってきたので俺はすかさずオナホールを先端に当て、そのまま一気に押し込んだ。

「んあぁ!」
「これね、こうやって気持ち良くなるためのもの」
「あ、んあ、あっ」
「これをね、つかおうと思ってたの、柚希のこと考えながらつかおうと思ってたの」

オナホールの狭さの中で育っている柚希のものを想像しながら、切なそうに漏れる声を聞くと毛細血管がぶちぶちちぎれそうなくらいに興奮する。そんな俺の利己的な様を沈静させたのは、涙ながらに喘ぐ柚希の何気ない一言だった。


「あきちゃあん、やだあっ」


俺は本当に柚希のことが好きで、その様はいっそ異常だろう。目に入れても痛くない、を、いつか体現してしまいそうで恐ろしい。だからこそ、やだとかきらいとかばかとか、そういう言葉のもたらす恐怖はすさまじい。


「……俺のこと気持ち悪いって思った?」


思わず手を止めると、息を乱した柚希が、おそるおそる首を回して俺を振りかえった。はじめて見た涙をうかべた目が健気で、かわいくて、でも罪悪感を煽る存在で、俺はどこに心を落ちつかせればいいのか分からなくなった。

「お、思わないけどお……」
「……うん」
「なんで俺に直接言わないの……」

はあはあと息を乱したまま、目元をふやけさせたまま柚希はいつも通りの素直さと誠実さで俺に語ろうとする。それだけで俺はもう、なにも言えなくなるくらいの深い感情に押しつぶされるのだ。柚希はそっと、オナホールに手を伸ばした。

「こ、こんなの、俺がいれば、使う必要ないじゃん」

様々な邪心から遠ざけたくなるかわいいかわいい柚希は、こうして突然男前な横顔を見せ、俺をますます翻弄するのだった。


「ほんとに、いいの?」
「いいって言ってるのに……なんで何度も言わせるの」
「いや、ごめ……不安だから」

長いあいだ、傷つけてしまうくらいならと、キスだけで満足していたはずだ。友人に「まだしてないの?」と呆れられても「お前インポだろ」と揶揄されても笑ったりうるせーと蹴りを入れたりしながらごまかせていた。

なのにこれはなんだ。はじめてオナホールを手にした。それを試すより先に柚希に見つかった。そしたらなぜだか柚希の性器を触ることができた。そしてそして、なぜだかほんとうに分からないけど俺は今、裸の柚希とベッドの上にいて、ガチガチになったそれの先端を柚希の狭い入口にくっつけた状態で、現状を確認していまさら真っ白になっている。

「ていうか……あきちゃんさあ……」
「ん……なに?」
「いい? いい? って何回も言ってるけど、だめって言われたらやめれるの」
「……そのときは」
「そのときは?」
「がんばります」
「はは、ばか」

柚希はシーツに背中をあずけ、腰元にまくらをかませた上で足を開き、なにもかも準備万端、という調子で俺を見上げてへにゃりと笑う。覚悟が足りないのはむしろ俺の方だ。だって、ずっとずっと俺はこの瞬間を。

柚希はゆるく笑ったあと、ゆっくりと眼を細めて言った。


「早くしてよ、待ってたんだから」


たぶん柚希は俺のことを、どういう角度からでも夢中にさせてしまえる唯一の人なのだと思う。


「あ……っ」
「ん、あっ!」
「ご、ごめ、いたい?」

おそるおそる挿入すると、柚希はくちびるを噛んでしまった。顔色を確認しながらゆっくりと腰をすすめていくと、ある角度をつくったとき柚希は大きく反応したため、俺は思わず謝ってしまった。

「いま、どんくらい入ってる……?」
「え? えーっと……半分、くらいかな……」
「半分でこれかあ……っ」
「い、痛いよな? ごめんな」

汗ではりついた額の前髪を指先ではらいながら、情けないごめんねを繰り返してしまう。はんぱなところまで埋まった状態はつらいけど、柚希だってきっとそうだ。腰をすすめることも引くこともできない俺の前で、柚希は震えながらすこし俺をにらんだ。

「もう、『痛い?』と『ごめん』、禁止」
「なんで?」
「もう聞かれたくない、それ」
「えー……でも聞きたくなっちゃうよ、不安だよ」

柚希は息をはいた。余裕を取り戻すための呼吸なのか、俺に呆れたことでの溜息なのか分からず、ひとりでに不安になっていた。そんな俺を見上げた、汗ばんだ柚希はひとつひとつ確認するみたいに丁寧に言った。

「おれだって、キスだけで満足してたわけじゃない、から」

ことばだけで快感の小波がからだを駆け上って、俺はそのまま奥まで一気に突き上げた。柚希は大きく身体を逸らせて反応した。きもちよくなればなるほど腰は動いてしまうし、好きだと思うほどに柚希を泣かせてしまう。

「ふ、っあ!」
「あ……ごめ……」
「んっ、んあ、い、いきなりっ」
「ごめん……でもだって……あー……ちくしょ、んっ」

ああまたごめん、って言ってしまった。

禁じられても破ってしまうし、きっと今、お願いやめてと懇願されても、止められないと思う。セックスの仕方なんかろくに知らないくせに、気持ち良くなる手段は本能で知っていた。がんがん腰を打ちつけながら、ぼんやりした頭で、ごめんと言わないための代わりのことばを探した。

「かわい、かわいい、柚希、すき、すきだよ」
「あっ、んあっ、あっ!」

ごめんを封じ込めるために、かわいい、と言えば、身体中に無理矢理閉じ込めていた愛憎がとめどなく溢れ俺でさえどう処理すればいいのかわからなくなった。なにか考えるより先に脳と心臓の奥が同時に痺れ、感じるより先に腰が動いてしまう。

「ひあっ、あっ、あきっ、あきぃ」
「ゆず、かわいいよゆず」

ふたりで素っ裸になってばかみたいな面してしまいには泣きそうになりながら、お互いの名前を呼び続ける。憧れていたセックスはときめきときらめきの夢見がちな行為ではなく、どろどろで汗臭くて本当に格好悪いものだった。


だから気持ちが高ぶるし、柚希を好きだということ以外の一切を考える余裕なんてなくなる。


「あっ、あきっ、すきぃ!」


戸惑いながら泣き叫ぶような柚希の声が響いた瞬間、俺は思わず達してしまった。長い射精のあとうっすら目を開くと、柚希の腹には精液が零れていた。

「え……うそ……」
「はあ……っ、どうしたの……?」
「柚希も、いった?」
「え、だ、だめだった?」
「いや、だめじゃないけど……こんなことあんのかなって」
「……こんなこと?」
「ふたり同時にいくって難しい、って聞いてたから、初めてで出来るんだ、って……」

なにもかも知らない行為の果て、息を整えながら見おろした柚希は、見知らぬ笑みを浮かべた余裕の人になっていた。つるりときれいな頬に快感の余韻を残して、口角をあげる。


「あきちゃん、もう俺から離れられないかもね」


そんなのもうとっくです。それなのに、ホールより先にこの快感を知ってしまったのだから、まさか何も知らなかったことに戻れるだなんて思ってもいない。覆いかぶさって柚希を抱きしめると、この腕の中にいることが奇跡みたいに思えた。








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