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宇宙もしくは和室



家庭教師のアルバイトを始めたのは、楽に金が欲しいというただそれだけの、ほとんど思いつきのような理由だった。

紹介所で「ちょっと大変かもしれないけど」と紹介されたのは引きこもりの中学生だった。教える範囲も特殊な分、結構な額を出してくれるという。俺は何も考えず、相手の顔を見ることもなく承諾した。


それは確かに大変だったし、まぎれもなく契機だった。


「あっ、あっ……」
「先生もっと腰突きだしてよ」
「えっ……こう……?」
「もっと」
「こう……?」
「ふは、すげー姿勢だな、ちょっとは恥ずかしくなんねぇの?」

俺はベッドにうつ伏せて頭を枕に沈め、対照に腰を高く突きだし義也くんに向けている。きっと、さらすべきでないその部分が丸見えだろう。義也くんは長い指でぐちゃぐちゃと乱暴にそこを掻きまわす。両親が不在の家の二階、南京錠で守られた部屋の中に、俺の嬌声が響く。


「生徒にこんなことされるのが嬉しいんだ? ド変態じゃん、先生」


初めて誘われた時は確かに驚いたけれど、「先生、ヤらせろよ」という利己的かつ一方的な台詞を吐く唇がわなわなと震えていたのを見て、なにかが弾けたのだ。彼の横暴な台詞を聞きながら、彼が繊細で不器用なただの子供だと知ってしまった。

最初はコキ合いだったけれど、しばらくすると義也くんは「入れさせろ」と言ってきた。戸惑うべきところだったのだろうけれど、あいにく後ろの開発は風俗で経験していて、悪くはなかったし、むしろ最近してくれる人がいなくて少し淋しかったので、なんというか、まあいいか、と思ってしまった。

中学生の彼からすれば、俺みたいなものでもスーツを着てドアをノックするとき大人に見えてしまうのだろう。だからこそそれを組み敷くというシチュエーションで昂ることも出来る。エッチで変態で、その一方で限りなく清純な彼は、俺が風俗と酒で生きている人間だと知ったらどうするだろう。カテーキョーシという肩書を持ちつつも、倫理とか常識とか、そんなものはなから持ち合わせていないと知ったら。

義也くんは無骨な指先で、がりがりかじるみたいに内側を擦る。それはすこしいたい。だから涙の混じった声が出る。

「あっ、あっ……!」
「きもちいの?」
「う、うん、きもち、きもちい」
「うん? じゃないでしょ?」
「はいっ、はい、きもちいです!」
「もっとでけぇ声出せよ、きもちいいんだったらさあ」
「ん、あっ、きもち、ぃ! よしやくんのゆび、きもちいですっ!」
「なにされるのきもちい?」
「お、おれの、スケベな穴の中ぐちゃぐちゃされるのきもちい!」

義也くんは一切家を出ないらしいが、所有している漫画やCDやDVDの数は多い。通販サイトを利用しているらしい。一度義也くんがトイレに行っている間に、棚の横に積まれた不自然な段ボールの中を見たことがある。

驚いたのは現れたアダルトビデオや同人誌の数についてではなく、その内容があまりにもハードだったからだ。「輪姦」「触手」といった露骨な単語からなるタイトルが並んでいた。大人がやみくもに規制するほど、子供たちは興味本位にかいくぐってしまうのだと、倫理学の教授が言っていた言葉を思い出した。

「あっ、あっ!」
「入れてほしい?」
「んぅ、……うんっ、うんっ」
「ならちゃんと言え」
「……いれて、」
「ちゃんと、って言ってんだろ」
「……いれて、ください……!」
「は? それのどこがちゃんとなの」
「よ、義也くんのおっきいおちんぽ、俺のトロマンに挿れてください!」

まあでも中学生ってそんなもんか。そんなに性に積極的なら、人を受け付けない守られた自室に無遠慮に飛び込んできた訳わかんねぇ大学生を、組み敷いて犯して思い通りにしたくもなっちゃうか。

高い授業料もらってるし、俺だってそれなりには気持ちいいし、全く損なわけでもないし、まあいいか。

義也くんはバックの体勢のまま、俺の尻を乱暴にこじ開け、ものを押しこんでくる。風俗店のディルドに慣らされた俺の箇所は、遠慮がちな義也くんを簡単に呑みこんでしまう。

「あっ、あっ!」
「ケツ振ってよ」
「あっ、だめぇ……」
「だめじゃないだろ、こんだけぎゅうぎゅう締めてるくせに」
「ちがうぅ……!」
「とろとろぐちゃぐちゃのケツマン、すげー狭い」

義也くんは腰を動かしながら、背中から腰にかけてをざわざわと撫で回す。乱暴な愛撫にさえ反応してしまうほど、その箇所は弱点だった。

「あっ、あぁー……」
「もっと声出せよ、気持ちいいって言え、おちんぽ気持ちいいって」
「あっ、ん、おちんぽきもちぃ!」
「もっかい」
「おち、おちんぽ、義也くんのおっきいおちんぽきもちぃ!」
「この淫乱が、変態教師が」
「ん、あっ、あ、だめ、だめだってえ!」

だめ、とか、もっと、とか言うと義也くんは反応する。入り込んだ先端や這いまわる指先にぴく、と入る一瞬の力で分かる。


「駄目、じゃねぇよ先生。喜んでんの分かってんだよ」


こういった台詞には照れている素振りを見せる、または解放して腰を動かしもっとと誘う。そうするとまた、ぴく、ぴくと義也くんの節々が反応するのだ。

AVや同人誌からそのまま盗んできたような台詞は冷静になると口元がにやついてしまうような恥ずかしさがあるけれど、まあいい。


まあいい、のだ。俺は細々と生きてるしそんで結構楽しいし、それならまあ、いい。


「あっ、やば、イっちゃうっ……あっん……」
「……んっ」
「あっ、あっ……」
「ん……」
「あっ、だめー……っ、あっ……!」
「……くっ……」

意外にも俺達は相性がいいらしく、同時に射精することも多い。だからいい、まあいい。吐き出した精液がシーツを汚す。このシーツはきっとお母さんが洗うのだろう。




「先生ってなんで嫌がんないの」
「なにが?」
「こういうコトすんの」
「……なんでだろうね?」

行為の後、気だるくてなにもかももうどうでもいいや、という気になってベッドに寝転ぶ俺の前で、義也くんは毎回律義に蒼ざめた顔をする。自分はなんてことをしているんだろうと冷静に反省してしまうみたいだ。

「……先生俺の事馬鹿にしてんだろ」
「してないよ」
「俺のこと……引きこもりの変態のどうしようもない奴って思ってんだろ」
「思ってないって」
「勉強も出来ねぇし、世間ことなんも知らなくて、将来も真っ暗で、サイテーだと思ってんだろ」

人目を盗んで生徒とのセックスを楽しんで、言い訳すら思いつかない浅はかな俺の前で、中学生の凝り固まった性への潔癖さは凶器みたいなものだ。そしてその凶器はいつも本人に刺さる。

「俺はサイテーだ、こんなことして……」
「まあまあ」

俺はゆっくりと起きあがった。ベッドに腰かけ肘を太股に押し当てて頭を抱える義也くんに、横から手を伸ばす。そして、頭ごと抱え込むように腕を回す。義也くんの腕が遠慮がちに俺の腰に回った。

目の前にいるのは淫猥な台詞を振りかざす男ではなく、ただの中学生だった。染色の痛みを知らない無防備なつむじがそれを証明していた。かわいいと思った。いや、きっとおそらく、俺はずっとずっと前から彼のことがかわいくて仕方ない。

「セックスなんて誰でもするんだから」
「……でも普通、家庭教師とはしない」
「じゃあ恋人ってことでいいじゃん」

義也くんが顔を上げた。眉は垂れて唇は半端な角度に歪んで、あまりにも情けない表情だった。

「な、に言ってんの先生……」
「え、だって恋人だったらセックスするの普通じゃない?」
「そ、それ俺と付き合うってこと……?」
「付き合ってればセックスもするでしょ」
「いやおかしいよ、それでもおかしいよだって俺」

この後、感情や希望やそういう大切なあれこれを無視した義也くんによって、自己否定と劣等感で話を押し込められるのが想像できた。面倒になったので黙らせようとした。左手は義也くんの頭に、右手は義也くんの膝の上にあったので適わなかった。だから唇で塞いだ。

義也くんはぽかんとした後、長い時間をかけてようやく事態を飲み込み、顔を真っ赤にした。セックスは何度もした。アナルもバイブも何度もつかった。でもキスは、初めてだった。


「難しく考えりゃいいってもんじゃないでしょ。いいのテキトーで。ホモだろうが家庭教師と生徒だろうが、死にはしないんだから」


目を見て言い切ると、義也くんは涙目になった。股間がキュンキュンなるくらいエロイ台詞を振りかざしていた人が、キスで顔を真っ赤にしている。思わず笑ってしまった。かわいくて。


「あれ、もしかしてキスってしたことない?」
「な、っ……ちげーよ!」
「そっか。じゃあ順番逆だったね? ちゅーしてからセックスすれば良かったね」
「良かったねって……そういう問題じゃないでしょ」
「ふふ、いいのテキトーで」

中学生の一人部屋には宇宙がある。親御さんには見つからないように、俺達は六畳の宇宙で間違いを犯す。ブラックホールに捕まった俺は、彼と同じように部屋を出られなくなってしまった。でもいいの、これでいいの。







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