■ act.5


 連れて行かれた先は定番の女子トイレだった。
 とはいえ私たちの学年は丁度合同体育で出払っている。しかも此処は四階。すなわち誰も来ない。
 案外考えているんだなぁと関心しつつ、そろそろ来るだろう攻撃に備えて目を閉じ歯を食い縛った。

「……っ!」

 その後すぐにパシッと乾いた音がトイレ内に響いた。それと同時に頬に痛みが走る。予想した通り、私は叩かれた。歯を食い縛っていたお陰でそこまで痛くなかったのが幸いだった。
 熱くなっている頬を手で押さえながら彼女たちを見た。物凄い形相で私を睨んでいる。
 せっかくの可愛い顔が台無しだ、なんて悠長にも思っていたら、罵声を浴びせられた。
 調子のってんじゃないわよ、とか。
 いい加減にしなさいよ、とか。  
 罵倒用の台本でもあるのかと思いたくなるほど、ありきたりな言葉を次々と浴びせられる。

 一度開いた口は中々閉じないもので罵倒は延々と続いた。
 思わず溜め息が出そうになったが必死で堪えた。そんなことしたら彼女たちの怒りを買ってしまい、この罵倒に終わりが見えなくなると思ったからだ。

 きゃんきゃん吠える彼女たちを前にどうして私がこんな目に合わなきゃならないのか考えた。
 私から彼に話し掛けた覚えはない。全て仁王からだ。それに会話だって最低限で済ませているつもりだ。ましてや席が隣になったのだってたまたまだ。
 それなのに勝手に嫉妬されて罵倒までされて。
 お門違いも甚だしい。
 何をしても妬まれるというならば、もういっそのこと仁王と普通に会話しても良いんじゃないだろうかとも思えてくる。
 そんな私の気持ちを知るよしもなく、彼女たちは未だ罵倒続けていた。



***



 あれから何十分続いただろう。
 ひたすら続く罵声に時折入ってくる暴力。長時間ともなると流石に我慢の限界だった。
 もう次やられたらやり返そう。
 そう決めた時、再び彼女の手が上に上がった。
 叩かれる、そう思い最初の時のように目を瞑り、歯を食いしばる。

「名前!」

 それと同時に名前を呼ばれた。

  


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