ここ数日、何とも言い難い日が続いていた。強いて言うならば嫌がらせの毎日と言うべきだろうか。
 朝、上履きに履き替えようと下駄箱に行けば靴は無く、代わりに土と塵が入れられていた。ふと近くにあったゴミ箱を覗いてみれば、中にブスや馬鹿などと落書きされた私の上履きがあった。最近買い替えたばかりだというのに、親になんて説明しよう。はぁ、と溜め息を吐きながらゴミ箱の蓋を閉めた。
 事務室で借りたスリッパを履いて教室に入れば今度は凄まじい光景が目に飛び込んたきた。一つの席が荒らされていたのだ。
 その被害を受けた席の主というのはもちろん私だった。椅子は落書きされ、机には生ゴミがかけられていた。
 周りは私の落胆する姿を見て笑っていた。
 一人、机の掃除をしていたら、厚化粧をした女子たちが私を取り囲んだ。そして一言。

゛ちょっと付き合ってくれる?゛

 きた、と内心思った。呼び出し。別にこれが初めてというわけではないのだけど、呼び出しとは嫌なものだった。勝手に嫉妬されて、言い掛かりをつけられて、挙げ句の果てには暴力だ。かといってこれを断れば彼女たちは逆上して強制的に連れていかれる。なので私は大人しく頷いた。

 着いた場所はもはや定番と化した屋上だった。相変わらずだなぁ、と呑気にそんなことを考えていたら、いきなり頬を叩かれた。鋭い音がなると同時に頬がじんじんと痛み熱くなる。頬を押さえていると、彼女たちからの罵声が始まった。
 調子乗ってんじゃないわよ。とか
 私の跡部様に近づくな。とか。
 私と跡部は幼なじみという名の腐れ縁だった。別に付き合っているわけでもない。向こうは私に好意を寄せているようだが、私にはそういった感情は無い。しかしそれを彼女たちに言ったところで納得してくれる訳がなかった。

 あれから数十分程経った頃、やっと気が済んだ彼女たちは捨て台詞を吐いて屋上を出ていった。
 顔は何度も叩かれて真っ赤だった。私はずるずると座り込むとフェンスに凭れかかった。
 すると又、ガチャリと屋上の扉が開いた。今度は一体誰よと重たい顔を上げた。そこには私への嫌がらせの原因とも言える、跡部景吾か居た。

 無様な姿じゃねぇか。と彼は笑いながら私に近づいてきた。そもそもの原因はあんたよと嫌味の籠った返事をすると跡部は苦笑した。そしてそのまま私の隣に座ると彼は叩かれて赤くなった頬に手を添えた。氷のように冷たい彼の手が少しばかり気持ち良いと思えた。

 隣から小さい声でごめんなと聞こえたのは、幻聴だろうか。
 そして添えられた手が震えているように思えたのは、ただの錯覚だろうか。
 跡部の顔を見なくても、彼が今どんな表情をしているのか、すぐに想像がついて私は小さく笑った。
 確かに嫌がらせは辛い。毎日続くと思う気が滅入る。でもそれ以上に彼の隣を誰かに譲るのが嫌だと思った。その時の私は不本意ながらも跡部の隣が心地良いと思えたからだ。


無力な君に乾杯
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