゛恋人に浮気をされたらどうしますか゛
 この質問に対し私は別れるに決まってるじゃんと答えたのを鮮明に覚えている。

「すまん、浮気した」

 実に淡白で軽い謝り方だった。悪びれる様子もない。一体これは何の罰ゲームなのやら、私は笑って返した。
 だが、いつまで経っても仁王のあっけらかんとした笑い声は降ってこない。いつもなら冗談の通じんヤツじゃのうとか言って笑うのに。
 すまん。と謝罪の言葉が再び降ってきた時は流石に私の顔も少し引き攣った。
 冗談にしては質が悪い、もう教室に戻ろうよと仁王の手を引っ張った。しかし彼は微動だにしてその場から動かない。それが私を物凄い不安にさせた。仁王の顔を見れば、彼の表情は硬いままだった。

「ねぇ仁王、さっきの言葉……嘘、だよね?」

 必死に笑顔を取り繕がせながら仁王に問いかけた。
 仁王は何も答えなかった。それが、どういう意味を差すのか、頭の悪い私でも理解できた。
 仁王が浮気するなんて考えもしなかった。したくもなかった。それほど彼は私を好いていたし、私も彼を好いていた。女の気配もなかった。
 それなのに。
 私は今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えながら、仁王の胸を何度も叩き、彼を責めた。
 それでも仁王は何も言わなかった。文句のひとつもなければ、弁解の言葉も無い。ただ、私の頭を優しく撫でるだけだった。
 漸く呟かれた言葉が、また謝罪の言葉で、堪えれず涙が溢れ出た。
 別れるか、という言葉に私は頭を横に振った。別れたくなかった。彼を離したくなった。
 二度と浮気をしない事を約束に私は彼の浮気を許した。



* * *



 あの日から何ヶ月経っただろうか。
 仁王に抱き締められるなか、いつもとは違う香水の匂いに顔を歪ませた。
 嗚呼、またか。と思った。また彼は浮気したのか。今私を抱きしめている、この腕で他の女を抱きしめたのか。そして私にもするようにキスをして、セックスまでもするのか。考えただけで虫唾が走った。
 
 仁王の胸に顔を埋めながら私は問い質した。
 浮気したのかと。
 仁王は鼻を指で擦りながら笑った。冗談は寄せと。
 仁王は気づいているのだろうか。嘘を付く時、鼻を擦るクセに。それが、たとえわざとだとしても仁王が何度も浮気をしていることを私は知っている。
 それでも私は別れを切り出せないでいた。
 浮気以上に別れが辛いからだ。別れたくない一心で浮気を見過ごしてきた。
 だが、それが仁王の浮気癖を酷くさせていた。私が何も言わないのをいいことに仁王は浮気を幾度となく繰り返していた。

 何故、彼はあの時、自ら浮気したことを告げたのか分かったような気がした。彼は私を試したのだ。浮気しても大丈夫な女かどうかを。
 結果、私は大丈夫な女と判断された。
 現に私は何度浮気されても別れを告げれていない。告げる勇気もなかった。もう仁王の目には彼女というよりも、都合のいい女としか見えていないのかもしれない。

 いつからだろうか。
 彼から香る優しい匂いが、甘ったる匂いに変わったのは。
 いつからだろうか。
 甘いはずのキスが苦いものに変わったのは。

 考えたら答えの代わりに涙が出た。
 浮気されている悲しさで泣いているのか、それとも別れを言い出せない自分に悔しくて泣いているのか、わからなかった。

 彼はあやすそうに私の頭を撫でた。それさえも涙を促すものでしかなかった。 
 私は貴方には勝てない。そう思った。
 そして、また私たちはいつも通り、抱き締め合い、キスをした。



さよならが言えない

そこに愛がないと知っていても。
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