屋上4
「なぁ、それってわざとか?」
他愛のない会話を続けていたら、丸井が、ふと俺を見て言ってきた。何の事に対してか分からず首を傾げれば、その見た目。と顔を指差された。
「いや、別にわざととかじゃないですけど……」
「でもお前、その見た目は絶対損するぜ。中身は親しみやすくて良い感じなのに」
「そうですかね」
「そうだって。なぁ、ジャッカル?」
丸井が同意を求めるようにジャッカルを見る。するとジャッカルは、嗚呼、と相槌を打った。
そして、今のままだと良いイメージはないかもな。とも言われ、俺は腕を組みながら唸った。
二人に助言されたところで俺の中で変えられる箇所といえば髪型ぐらいしかないのだ。この眼鏡は俺からすれば相棒のような存在。なのでこれを手放すつもりはないし変えるつもりもない。
一人考え込んでいると、その間に丸井が間近にまで迫ってきていた。
「取り敢えずさ、その眼鏡取ってみろよぃ」
「え、あ、ちょっと待ーー、」
待ってと言い切る前に丸井は俺の相棒を攫っていった。ついでに前髪も掻き上げられる。
眩しさとぼやける視界に目を細めると、俺の顔を食い入るように見る丸井と目が合った。元々、人と目を合わすのが苦手な俺は恥ずかしさから目を逸らす。すると、逃げるなよと言わんばかりに彼の手が俺の頭をがっちりホールドした。そして俺の顔を見て満足したのか、丸井は表情を和らげた。
「ふーん、意外と整った顔してんじゃん」
「まじっすか、どれどれ」
丸井の言葉に今度は切原が俺の顔を見だした。隣に居たジャッカルまで覗き込んでくる。
しかし彼らの反応は丸井とは異なった。
「……別に普通じゃないスか」
切原は期待外れだというように表情を曇らせ、ジャッカルはというと何とも言えない表情を浮かべていた。
「なんていうかパッとしないし」
「確かに整ってるけど少し地味、って感じだな」
「そうそう、そんな感じ」
切原とジャッカルの言葉に丸井は眉間に皺を寄せると再び俺の顔を見た。
「でも俺は結構好きな顔なんだけど」
そう言うと丸井は俺の頬を掠める髪に触れた。その髪を優しく掬い上げると、俺の耳にかけて軽く微笑んだ。まるで花を愛でるような仕草に俺の頬はみるみるうちに紅潮した。
後ろで切原とジャッカルが呆然としている。
だが当の本人の丸井は俺の赤くなった顔を見て「タコみてぇ」と呑気に笑っていた。
「えっと、丸井先輩って、その、まさかそっちの気があるんスか……?」
顔を引き攣らせた切原が恐る恐る問いかける。その問い掛けに皆が丸井を見つめた。丸井は一瞬考える素振りを見せると、首を大きく傾げた。
「んー、俺そういうの良くわかんね」
はは、と笑いながら答える彼に皆が脱力した。それと同時に予鈴が鳴ったので、その話は必然的に終わりとなった。
「ブン太、お前、次移動教室じゃなかったか?」
「あ、やべ。忘れてた。てなわけで赤也、名字、また部活でな」
そう言うと丸井は俺の頭をポンポンと叩いて、屋上を後にした。それに続くようにジャッカルも屋上から出ていく。
屋上には、俺と切原たけが残された。
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