屋上2

 仁王が去った後も俺は一人屋上に残っていた。彼の話が衝撃過ぎたというのもあり、教室に戻る気にはなれなかったからだ。
 それに戻っても陰口言われるだけだろう。
 フェンスに凭れかかるように座ると、俺は長い溜め息を吐いた。
(なんで俺がマネージャーなんかになってんだろう。これも全部仁王の所為じゃん)
 だが、俺はすぐに取り消すように頭を振った。誰が事の発端であろうと断り切れなかった自分の不甲斐なさが一番悪いと思ったからだ。 
 そして引き受けてしまったものを今更どうこう言っても仕方がない。
 なるようになる。大丈夫だ、と自分に言い聞かせると少しの間だけここで休むことにした。



***



 朦朧とした意識の中、階段を上る足音がした。それも複数だ。笑い声も聞こえてくる。
(……誰か来る、)
 薄っすらと目を開ける。それと同時に扉が開く音がした。

「……名字?」
「切、原くん」

 名前を呼ばれ、顔をあげると切原が怪訝な表情でこちらをみていた。なんでお前がいるんだ、とでも言いたそうだった。それはこっちの台詞だ。なんで切原が、そう思っている間に赤髪の生徒と色黒の生徒が順に入ってきた。名前は知らないが二人とも朝テニスコートで見た顔だった。

「あれ、さっきの眼鏡じゃん。確か名前は……」

 なんだっけ? と首を傾げたのは赤い髪が特徴的な俺と背丈の変わらない生徒だった。首を傾げる彼の様子に隣にいた色黒の生徒は溜め息を吐いた。

「名字だろ。お前、名前くらい覚えとけよ」
「丸井先輩、殆ど話聞いてなかったスもんね」
「仕方ないだろい、特にちゃんとした自己紹介もなかったし。それより名字もここで昼飯?」
「昼飯……?」

 赤髪の生徒、もとい丸井の言葉に、今度は俺が首を傾げた。今はまだ、二時限目を過ぎたくらいだと思っていたからだ。しかし彼らは手にパンや弁当を抱えていた。
 一瞬早弁か何かかと思ったが学年も違う三人が揃って早弁とは考えにくい。俺は恐る恐る丸井に聞いてみた。

「えっと、もうお昼の時間なんですか……?」
「お前寝ぼけてんのか?」
「もう昼休みだぜ、時間見てみろよ」

 色黒の彼に促され、ポケットから慌てて携帯を取り出すと時間を確認した。
 確認するなり顔が一気に青ざめた。
 時間は一時前。午前の授業はとっくに終わり、お昼休みを迎えていた。どうやら少し休む予定がだいぶ休んでしまったらしい。

「そういやアンタ午前の授業出てなかったよな」
「え、まさかお前、俺らが来るまで此処でずっと寝てたのかよい」

 丸井の言葉に俺はもう笑うしかなかった。
 それが肯定の意味だと悟ると丸井は、うわぁと声を漏らした。
 
「おいおい、お前確か編入生だろい? 編入早々にさぼりって大丈夫かよ」
「んー、別に大丈夫だと思いますよ。過ぎたことをどうこう言っても仕方ないですし。なるようになりますよ、多分」

 あっけらかんと答えると、丸井と色黒の二人は顔を見合わせた。

「……なんか、意外だな」
「え?」

 ぽつり、と言われた言葉に首を傾げる。色黒の彼は困ったように、えっと、その、と言葉を濁らした。更に首を傾げれば、罰悪そうに俺を見た。

「……気を悪くしないでくれよ。見た目が、その、地味だからよ。中身も暗いのかなって思ってて。でもお前結構サッパリしてて驚いた」
「はは、よく言われます。意外だって」
「そう、なのか?」
「そうですよー」

 だから気にしないでくださいと付け加えれば、彼は安心したらしく胸を撫で下ろしていた。




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