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「あっ、言い忘れてけど今日の二時限目は体育館で身体測定だからな。遅れないように行けよー」

 それを二時限目の始まる数分前に言われた。
 遅れるに決まってる、周りも同じことを思ったらしくブーイングの嵐が起きた。先生は笑顔で誤魔化すと早々と教室を出ていった。
 名前はやれやれと肩をすぼめると、体育館に向かうことにした。こうしている間にも時間は確実に経っているのだ。
 鳳に一緒に行こうと声をかけると、彼は嬉しそうに駆け寄ってきた。
 そして何故だか名前の手を握った。
 不思議に思った名前は握られた手と鳳を交互に見ると小声で呟いた。

「長太郎、あの、手が……」
「ああ、はぐれないために、ね」

 これはその防止策だよと笑顔で言われ手を離すに離せなくなってしまった。
 でも男同士が手を握るのは変ではないのだろうか。現に女子たちからは陰口を叩かれ、男子には冷やかされた。
 しかし鳳はそれを気にも止めず、逆に少し照れ臭そうに笑っていた。

「長太郎は手を繋ぐの好きなのか?」

 その様子に名前が聞くと、鳳は自分の頬を軽く掻き、少し目を泳がした。だがすぐにいつもの笑顔を浮かべた。

「うん、相手が名前だから余計に」
「?」

 それってどういう意味だよと聞こうとしたが、その前に鳳が歩き出してしまった。そのうえ、別の話題を振られたので聞くタイミングを逃してしまった。


***


「にしても人多いよな」
「在校生が二千人近くは居ますからね」

 廊下を歩きながら辺りを見渡した。人で溢れ帰っている。油断すれば人の波に押されそうだった。

「はぐれないよう気を付けてね」
「あ、うん」

 鳳に注意されたので手を握り直そうとしたら、後方から身体を押された。
 不意な出来事に名前の身体はよろめき、前方に倒れ込んでしまった。しかも丁度前に柱があった為、思いきり鼻を打ってしまった。

「いってー、くそっ誰だよ……」

 打った鼻を擦りながら文句を零すが、誰からも返事がない。
 それよりも名前は、あることに気が付いた。倒れたことにより、繋いでいた手が離れてしまっていたのだ。
 慌てて起き上がと辺りを見渡した。だが鳳らしき人物が見当たらない。

「え、長太郎……?」

 何回か彼の名前を呼ぶが返事はない。
 彼が居ないと体育館が何処にあるのか此処が何処なのかも分からない。

「ま、まじかよ……」

 名前の嘆き声は雑音で掻き消された。



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