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「……名前って、可愛いよね」
「は?」

 他愛ない話をしていたら、鳳がふとそんなことを言いだした。彼の思いがけない発言に名前は一瞬固まってしまう。周りも少なからず驚いていた。

「いやいや俺男だし」
「うん。でも男の割には背低いし」
「……長太郎の身長が高いだけだろ」
「そうかなぁ、普通だと思うけど」
「俺に対する嫌味か」

 恨めしそうに見ると、苦笑いされた。

「あと顔もどちらかというと女顔だしね」
「だからって可愛いには繋がらないだろ」

 指摘すると彼は腕を組んで唸りだした。

「んーなんていうか小動物みたいで」
「は?」
「だから小動物みたいで可愛んだ」
「しょ、小動物ね……」

 その言葉に思わず顔がひきつった。彼に悪気はない。それは名前にも分かっていた。
 ただ、彼の言葉を聞いて必死に笑いを耐えている周りには腹が立った。
 一体どのあたりが小動物なのやら、名前は頬杖をつくと溜め息を吐いた。

「あ、そういえば名前は部活何にするの?」
「……一応テニス部だけど」

 鳳に聞かれ、名前は呟くように答えた。また黒崎みたいなことを言われたらと思うと、声が無意識に小さくなってしまう。
 鳳は一瞬驚いた顔をすると直ぐ様、いつもの笑顔になり嬉しそうに喋りだした。

「じゃあ俺と一緒だね!」
「え? 長太郎もテニス部なの?」

 鳳の言葉に名前は目を輝かせた。

「うん、因みにレギュラーだよ」
「へー、ってレギュラー?!」

 勢い良く頭を上げると、名前は鳳をまじまじと見つめた。まさかこんな身近にレギュラーの人が居るとは思いもよらなかったのだろう。

「確か氷帝って、部員が二百人以上はいるから相当な実力がないとレギュラー入りは無理って聞いたんだけど」
「そうみたいだね」
「そうみたいだねって」

 他人事のように答える鳳。
 ふと先生から聞いた話を思い出す。美形揃いのレギュラー陣。改まって見れば鳳は整った顔立ちをしていた。


***


 あれから鳳と話し込んでいると何度か視線を感じた。最初は単なる気のせいかと思ったが、すぐ気のせいではないと気付いた。突き刺さるような視線。それは編入生に対する興味というよりも敵意に近かった。
 現に陰口がちらほらと聞こえてくる。
 鳳くんなんであんなやつと
 編入生だからって調子にのりすぎ
 嫉妬心丸出しの言葉だった。
 男でさえ嫉妬の対象になるのなら、女だったらどうなるのやら。考えただけで名前は身震いを起こした。
 当然、陰口は鳳にも聞こえていた。罰悪そうに俯いている。

「ごめんね」
「なにが?」
「俺の所為で嫌な思いさせちゃって」

 申し訳なさそうに謝る鳳。それに対し名前は大丈夫だという意味を込めて彼の頭を撫でた。

「気にすんな、長太郎は悪くない。というかさ俺寧ろ嬉しいんだよね」
「え?」
「だって僻まれるくらい俺たちは仲良しに見られてるってことだろ?」

 それって嬉しいじゃんと笑顔で言うと、鳳は驚いた顔をした。まさか、そんなふうに言ってくれるとは思いもしなかったからだ。
 鳳はすぐ満面の笑みに変えると、嬉しそうに強く頷いた。





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