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 バキィっと豪快な音が鳴った。後ろに倒れかける跡部。その顔は痛みで歪んでいる。名前はその様子を冷ややかな目で見ていた。
 周りは唖然としていた。まさか、あの跡部が殴られると思いもしなかったからだ。しかし数秒も経てば女子たちが悲鳴に近い声をあげ、名前に罵声を浴びせ始めた。だが名前はそれを気にとめることもなく、ただ跡部だけを見据えていた。

「俺を馬鹿にするのはどうぞご自由に。でも亮たちを侮辱するのは許さない」
「っ、俺様を殴るとは良い度胸してんじゃねぇか」

 殴られた左頬を擦りながら睨みつける跡部。

「それはありがとうございます」

 しかし名前がそれで怯む訳がなく、皮肉にもお礼を述べた。その挑発的な態度に跡部は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにニヤリと妖しい笑みを浮かべた。それは何か面白いものでも見つけた時に見せるような笑みだった。
 そして名前に近寄るなり、彼の顎を掴んだ。

「……なんだよ」
「俺は、気の強い奴は好きだぜ。まぁいつまでもつかは知らねぇが今回は特別に入部を許可してやる。有り難く思いな」

 そう言うと掴んでいた手を離した。

「それはどうもありがとうございます……え、まじ?」

 まさかの展開に驚き、顔を上げると彼は乱れた制服を整いていた。名前が目を瞬きさせながら跡部に問いかけると彼は「嗚呼」と相槌を打つだけで、それ以外何も答えなかった。そして何事もなかったように教室から出ていこうとしていた。

「ちょ、説明しろよ!」

 名前は慌てて跡部に駆け寄ると彼の肩を掴んだ。面倒臭そうに振り返る跡部にもう一度問いかけた。

「……なんだ、許可されたくなかったのか?」
「いや、そうじゃなくて。俺はあんたを殴ったんですよ?」

 どういう経緯があったにせよ、部長に暴力を奮ったのは人を入部許可するだろうか。普通ならあり得ない。だが跡部は許可した。その真意を知りたかった。

「そんなのお前が気に入ったからだ」

 彼はそう答えた。



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