色-賜-SS
こうすれば寒くない 1/6

(名前変換)
※変換されない場合は冬里さん宅長編ヒロイン名・李句になります。




ピピピ、と耳障りな音がして、官兵衛は眉間に深くしわを寄せた。
緩慢な動作で音源を脇から抜き取ろうとしたが、それより先に李句の手が無遠慮に懐から入りこんできて、それを抜き取る。
抵抗する気力もない。


「38.2…なかなかですね」

「それは、つまり」

「何度も言っているでしょう」


鼻が詰まっているせいか、声までもが低くひび割れるようだ。
そのせいで瞬く間に李句にばれてしまい、今こうして床に伏せているのだが。


「典型的な、風邪です」






忙しい時期だ。
風邪になど構っている暇はないと言って机に向かった所を、李句に無理矢理押し倒された。
腕力など子供にも劣る李句に倒されるのだから相当だとこぼすと、どこをどう押せば思い通りに動くか心得ていますから、と返ってきた。

技術か、なるほど。
護身術は習ったようだからな。
…専ら武器にばかり頼っているように見えるが。


「それにしても官兵衛様が熱を出すとおつらいでしょう。平熱、この前確かめたら35.2でしたからね」

「それは低いのか」

「かなり低いですね。36度あたりが平均的な体温です」

「お前はどうなんだ」

「平均36.9です」


まさに小動物だな、と返事をしようとするも、喉の奥からこみ上げてくる咳に阻まれ、言葉を詰まらせる。
たまらず寝がえりを打って李句と真逆のほうを向く。
向けられた背を、李句は懸命にさすってくれた。


「症状は風邪ですが、どうします?お医者様を」

「しばらく…ごほっ、様子を見る…。いちいち騒ぎたてて、間者の耳に入ると、厄介だ」


朦朧とする頭で、官兵衛は再三李句に部屋を出るよう言おうと思った。
さっきまで何度言おうが、全く聞く耳を持たなかったのだ。
看病してくれることは有り難いのだが、仕事が気がかりでならない。

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