山羊の寝床 | ナノ

 6

「船長、クナツの部屋ってどうします?俺らの誰かの部屋に入れますか」

もぐもぐ、シチューうめえ。
コックのランスに3杯目のおかわりをもらったら、これでおしまいだって言われた。まだ入るぞ!って言っても、海の上だと食料は限られているらしいので、まあこれで我慢。

「って言うか悪魔って寝るのか?」

「(もぐもぐ)当たり前だろ。まあ、充分すぎるくらいの魔力の供給でもあればできるだろうけど、むこうだと1日のほとんど寝てる奴だって珍しくねえし」

「はー、勉強なるなー」

見れば、船員の何人かが真剣な顔でメモを取っている。
お前ら、こんなもんメモ取るようなことじゃねえだろうに。勉強熱心なのは良いが、こんな豆情報どこで役立つんだ。

「しかしそうなると、やっぱりクナツの寝床は確保しないと。あ、言っとくけど1人部屋はさすがにやれねえからな」

…こいつら、敬語やめてからホントに俺に対して普通になったな。悪魔様!とか言われてた頃(さっきだけど)が懐かしく思えてくるわ。
でも、この船じゃあ1人部屋はたしかに無理そうだ。

「ハンモックで寝たことあるか?慣れねえと落ちるから気を付けろよ」

いくつかある部屋を見せてもらうと、蜘蛛の糸みたいなもの(ハンモックって言うのかコレ)がいくつも天井から下がっている。ためしに1人が寝て見せたけど、ほうほう。ゆらゆら揺れてて面白いなコレ。

「お、おお…結構揺れ………寝にくい」

「クナツお前…ハンモックでうつ伏せで寝たらそりゃ寝にくいわ」

「それに、そんな風に足を曲げると窮屈だろ」

「俺らみたいに、普通に仰向けで良いじゃねえか」

「……気持ち悪ぃ。寝にくい」

「難しいなお前…」

難しくて悪かったな!生まれてから120年、この寝方以外で寝た覚えは無い。むこうだといつもベッドだったしな。
仕方ないからハンモックは諦めて床に横になってみても、固い床には慣れるのに時間がかかりそうだ。

ああくそっ!もう良い、勝手に良い場所探すからな!!

「あ、分かった。あいつ山羊だからあんな寝方なんだ」

「あーなるほど。じゃあ床に何枚か毛布を敷いて…あれ?クナツどこ行った」

部屋を出て他の部屋も覗いてみたが、同じような部屋がいくつか続いたり、樽が詰め込まれた部屋だったり、紙や本が山積みだったり。
医務室なら、と思って覗いてみたら、船医がメス眺めて笑ってた。蹄なのに全く足音を立てずに逃げた俺すげえな。医務室のベッドは実験台って呼ぶことにした。寝るもんじゃねえよアレは。

…でええええいっ!!1つくらいまともなベッド無いのかこの船はっ!!

と、思ってたら。

「あ、あった…!!」

何だよちゃんとあるじゃねーかよ!
適当に扉を開けた部屋には、人間の大人が1人寝てもまだ余裕がありそうなベッド。シーツは綺麗に整えられている。決めた!ここで寝るからな俺!

ばふん!!
やっと見つけたベッドに横になると、固すぎず柔らかすぎず良い感じだ。寝返りをほとんど打たない俺には大きすぎるくらいのベッドだが、それはそれで気分が良い。
それに、さっきシチューを食べて腹も膨れているせいか、横になっていると眠くなってきた。もうこのまま寝て……ん?

「そういやこの匂い…誰のだ?」

考えてみれば、ちゃんと整えられてんだから、このベッドを使う持ち主がいるはず。だが、人間にしては匂いが薄すぎる。既に船員たちの匂いは判別できる自信があるのに、このベッドの匂いは分かり辛い。とにかく薄いんだよちくしょう…!
ええい最終手段!枕にボフっと頭を押し付けた。

…………。

「アホーキンスじゃねえかああああああああああ」

そうだよ!この匂いあいつじゃねえか!!
はっと気が付いて部屋を見渡してみると、俺にはどう使うものなのかさっぱり分からない器具や、机、本がぎっしりの棚、そしてなぜか大量のわら人形。
…ここ、あいつの部屋かよ…!!

そうと分かればベッドから降りる。もったいないが、「このベッド俺によこせ!」なんて言ったら、あいつは絶対、あの無表情で俺の隣で寝ようとする。絶対、する。
…なんだそれマジでこええ…。

べしん!

「って!…なんだこれ?」

想像するだけで鳥肌が立って、思わず尻尾を振ると何かに当たった。ベッド脇にあったそれは、俺もすっぽり入れそうな大きな木箱。何か黒い木材でできていて、うっすらと彫られた彫刻が綺麗だ。
蓋を外してみると、中にはわらがぎっしり。どうやらわら人形の材料箱らしい。触ってみると、わさっとしててちょっとチクチクで、なかなか良い感じ。それに、妙に落ち着くのは何でだ?

試しに箱に入ってみると、大きな箱は思った通り、俺が横になったサイズとぴったり。
良いんじゃないか?これは良いんじゃないか?ホーキンスめ、良いもん持ってんじゃねえかよ。
どこか静かな場所に移動させようと考えていたのに、いつの間にかそのまま寝てしまっっていた。

はっと目を覚ますと、部屋中に大量にあったわら人形が、横になる俺に寄り添うように集結していた。

…………よし、とりあえずホーキンス殴りに行くか。

しかしその後、ホーキンスを見付けて飛び蹴りして(またかわされた!)問い詰めると、俺があの箱の中で眠っている時間には常に船員と一緒にいたと言う。
……じゃあ何だ?あの大量のわら人形が勝手に俺に寄って来たと。

「誰も触っていないのならそうだろうな」」

「いやいや待ておい。ここ人間界だろ。わら人形なのに生きてんのか」

「さあ」

さ あ っ て !!
って言うか自室にあれだけの量のわら人形を置いてるお前は何なんだ。そんな勝手に動くようなものが作れるお前は人間か。
そんな疑いの目を向けていると、ホーキンスが俺の尻尾を指さした。

「そうとう気に入られたな」

見てみると、尻尾にいつの間にかわら人形が1つ(1人?)引っ掛かっていた。
……ホーキンスと言い、このわら人形と言い……俺に恨みでもあんのかこの野郎めが!!!!


「寝床に聖水を撒け。それでも眠れないなら、君は鏡を覗くべきだ」



あとがき
ホーキンスさんのわら人形の可愛さは異常…!あのわら人形って、やっぱり自作なんですかね。自室で黙々とわら人形を作るホーキンスさんなんて、なんですかそれちょう可愛い…っ。
管理人:銘




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