山羊の寝床 | ナノ

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魔界は良いところだ。
まあ魔界以外は知らないけど、面白いことがいっぱいある。
友達と人骨山で遊んだり、学校では人間との契約の安全な破り方を習う。
いつかおれも人間と契約して、人間界でたくさん暴れてみたい。

人はおれたち悪魔を呼んで、こきつかったり人を殺させたりするらしい。
おれたちは人から報酬や条件をもらって、その願いを叶えてやらなければならない。その際、人間との契約をいかに上手く自分に有利にするかが大切だ。
つまりは、ローリスク・ハイリターンを目指せってこと。

「はーい、では昨日出した宿題です!
人間から『5人殺してほしい。報酬はそいつら5人の肉体』と契約を持ちかけられたらどうしますかー?」

「「「はーい!」」」

「じゃあクナツくん!」

「5人を殺してから契約者に、『あいつらは体がみんな小さくて、4人分しか無かった』って言いまーす!」

「良くできましたー!それなら契約者にプレッシャーをかけられますね。それを理由にして、じりじりとこちらの有利な状態に持って行きましょう」

「「「はーい!」」」

学校はやっぱり楽しい。
教科書をよく読めば授業も簡単だし、人間ってなんだかバカっぽい。
人を殺したいなら自分でやれば良いのになあ。

学校が終わったら友達と走ったり飛んだりして遊びに行く。
学校から少し離れればいくらでも遊べる場所があるし、運が良ければ迷い込んだ人間と出会うこともあう。そういう人間はたいがいはその場で殺されるか、もっと上級の悪魔たちの所へ連れて行かれたり。
たまーに帰れる奴もいるらしいけど、まあこっちに来る奴自体が本当に稀だから、本当かどうか怪しいもんだ。

「クナツくん、大きくなったら一緒に人間界に行こうねー」

「ばか、一緒かどうかなんて分かんないだろ?どんな人間に呼ばれるかも分かんないのに」

「そっかー、でも一人じゃ怖いよね」

「大人になったら怖くなくなるんだよ、きっと」

「そっかー、クナツくん頭良いー」

自分で人間界への門や亀裂を作れるのは、おれたちみたいなのより、もっともっと上の悪魔たちだ。それ以外の奴らは、ここで“呼ばれる”のを待つしかない。

おれたちは250歳くらいになると、人間界にある魔術書や悪魔使いの書に名前が現れるそうだ。そうすると人間たちが儀式をして、たくさんの名前の中から選び出した悪魔や魔物を呼ぶわけだ。
おれはまだまだ半分の125歳にもなってないから、もっと頑張って勉強をしなくちゃならない。
将来むこうで大きな仕事をするためにも、たくさん人間や契約について勉強だ!

「そう言えばね、人間は今“かいぞくおー”になりたい奴がいっぱいいるんだって」

「“かいぞくおー”?サタン様より偉いのか?」

「分かんない。海で一番すごい奴のことだって」

ふーん。海で一番。
人間界の海は青になったり緑になったり赤くなったりするって聞いた。
こっちはずっと真っ黒なのに、むこうは海も気持ち悪いんだなあ。

でも一番なのは良いことだ。
強くて頭が良くて何でもできるってことだ。
人間もやっぱり一番が好きなのか。感心感心。

人間も頑張ってるじゃないか、と見直していたら、ふと髪の毛が引っぱられた。

「なに?何か付いてた?」

「え?何が?」

「今おれの髪の毛…」

引っ張ったじゃん、と続けようとしたら、思いっきり舌を噛んだ。いってええええ!
なんだかよく分からないものに縛られているようで、おれはものすごい速さで空へ昇って行った。これは、まさか。

「クナツくんどこ行くのー!?」

友達が豆つぶくらい小さくなったころ、おれの目の前は真っ暗になった。
万年変わることの無い暗黒の空に突っ込んだようで、息が、できねー、んだけど…!!
それでも体は上へ上へと引き上げられるままで、足も手も動かねえわ翼も出せねえわでどうしようもない。

このまま行けば、空のむこう?
空のむこうって何があるんだ。魔界と別の、地獄?冥界?黄泉?まさか天国?



「子供は学べ。頭の中を埋めて悪魔に隙を作らぬために」



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