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扉に手を掛けてハルアたちを待っていたパウリーがノックすると、扉の向こうで一斉に息を飲んだかのような緊張感が伝わってきた。パウリーもタイミングを計るように大きく息を吐いたかと思うと、一気に扉を手前に引き明ける。
薄暗かった通路に、その部屋の光がどっと流れ込んだ。

「「「「はっぴっ…!!」」」」ぶちっ

「…法被?」

しん…と空気が凍りつく。

室内には、さっきまでいた避難所ではあまり姿を見なかったガレーラの社員や社長に加え、どこかに行っていたブルーノの姿もあった。一同は飾り立てられた室内で、口を開けた状態で固まっている。その全員の視線を浴びているタイルストンの手には、右手には巨大な三角錐…クラッカーと思われるものと、左手には…紐。根元でちぎれたらしいそれは、クラッカーが再起不能であると彼らをあざ笑っていた。

声を掛けて良いものかとハルアがパウリーを見上げると、苦々しい顔で葉巻を噛んでいた彼ははっと我に帰ったようで、ぱん!と手を打つ。

「クラッカー中止!無し!忘れろ!せーの!!」

「「「「は、ハッピーバースデーハルア−!!」」」」

「………ええ!!?」

自分の名前があがったことに驚いたらしいハルアの声と同時に、横に控えていたルッチが、本気でどこに隠し持っていたのか分からないパーティーグッズの三角帽をハルアの頭に乗せた。さっきのクラッカー破壊事件の詫びなのか、「ばーんっ!!」といきなり叫んだタイルトンの足を周りの船大工たちが無言で蹴る。

「はっはっはっは!ンマー、こりゃあしまらねえな!!」

「まったくタイルストンったら…。クラッカーのメーカーにもクレームを入れましょうか」

「そんなもんは後だ後。まずは呆けてる主役を部屋に入れねえと」

ほらほら!と手招きするアイスバーグの笑顔が、あわあわと困惑しているハルアの様子に苦笑に変わる。
その後ろでは社員たちががたがたと長机を持ち出して来て、こちらも準備してあったらしい料理が並べられていく。通路で香った良い匂いの正体はこれかと気付いた頃には、室内は完全にパーティー会場に早変わり完了。騒がしい声で外の嵐はかき消され、避難所の声も聞こえない。

「えっと、ぼくの誕生日を…祝うために?」

「これだけ準備したのに、他のことに勘違いされたらさすがにへこむな」

「だってまさか…こんな…み、皆さんが?」

「どんだけしどろもどろなんだよ!素直に喜んどけそこは」

「ハルア兄ちゃん、今日誕生日なの?おめでとー!」

「あれ?そういえば今日でしたっけ?たしか…」

「ンマー!なんだチムニーとゴンベも一緒か」

正確には、ハルアの誕生日は翌日。
それに合わせてこの誕生日会も予定されていたが、それをぶち壊したのがまさかのアクア・ラグナだった。時期が近いとは言え、まさかどんぴしゃで被ると思っていなかった面々はそれはもう大騒ぎ。

「気象局の放送を聞いて焦った焦った。避難所の準備もあるし、準備も万端じゃなかったからな」

「パウリーの奴なんか、空気読めアクア・ラグナ!なんて叫んでおったぞ」

「言ってねえ!お前だろそりゃ」

「まあとにかく、だ。ここまで準備して、そんなの勿体無いです申し訳ないですなんて言われりゃどうしようもない訳だ。祝って良いか?ハルア」

ジュースの入ったグラスを手渡しながら、きっちりハルアの反応を予測していたブルーノが確認という名の釘をさす。その目論見通りに遠慮する選択肢を奪われたハルアは、顔を赤くしながらうなずくしか無い。

「ハルアのお許しをもらったところで、祝うぞてめえら!!」

上品とは言えないアイスバーグの掛け声で、いつの間にか全員にまわされていたシャンパングラスが持ち上げられる。
チムニーにもハルアと同じジュースのグラスがまわされ、視線がハルアに集まる。

落ち着かせるように肩を叩いたルッチを見れば、無表情が少しだけ崩されて笑みが浮かべられている。しかしハルアを落ち着かせたのはそんなルッチではなく、その笑みに小さくきゃあと声を上げた女性事務員たちだったりした。
何はともあれ肩の力が抜けたハルアは、ぐっと背筋を伸ばす。

「明日から11歳になります!まだまだ子供ですが、どうぞよろしくお願いしまああああす!あ、ブルーノズ・バーもこれからもご贔屓にー!!」

珍しいハルアの大声で、宣伝かよ!というツッコミは誰にも聞こえないままに、ところどころでグラスが鳴る。
ふう、と息をついたハルアの頭を代わる代わるに撫でに来ては、さあ騒ぐぞと言わんばかりに料理に駆け寄り、シャンパンをビールに持ち替えて船大工たちは笑う、笑う。

「おい、避難所の奴らにも騒ぎたい奴は来いって声をかけてやれ!揉め事起こす奴は外に放り出すからな」

アイスバーグの指示に返事するように、一際強い風が避難所の壁や屋根を叩いて行く。
はーい!とこちらも力強く返事をした数人が扉の向こうへ走って行くと、しばらくもしない内に、見知った街の住民たちがぞろぞろと顔を覗かせた。

「すんごいパーティーだね。ハルア兄ちゃんってすごい人?」

「いえいえ!皆さんお祭りやパーティーが大好きですからね」

「それもあるけれど、皆ちゃんとハルアをお祝いしているのよ。…ああ見えてもね」

「あ、アイスバーグ脱いだ!」

「アイスバーグさん!?」

騒ぎの中から抜け出してきたカリファは、撫でられすぎて乱れたハルアの髪を直していたが、またすぐに騒ぎの中心へ戻って行った。セクハラです!と叱りつける声もすぐに聞こえなくなる。


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