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『こちらウォーターセブン気象予報局』
町中に設置されたスピーカーに電伝虫たちが声を届ける。
町には強い南風が吹き、誰かが小さく“カロック”だ、と呟いて風に溶けた。
『只今、島全域に“アクア・ラグナ”警報が発令されました』
くり返します、と何度も響く声に、町中がため息を吐く。
今年もやってくる厄介なお客さん、アクア・ラグナ。
「ブルーノさん、さっきの放送って・・・?」
「ああ、ハルアは初めてになるんだな」
ついさっきガレーラから戻ってきたハルアに、ブルーノはお疲れと声をかけて、以前のように頭を撫でそうになるのをこっそり堪えた。
このウォーターセブンを毎年襲う高潮、アクア・ラグナ。
裏町の家屋は2階まで沈んでしまい、戸に鉄戸をはめてワラを詰めずにいると、家の中にまで浸水して大変なことになる。
そのために毎年警報が発令されると、造船工場の全ドックが避難所として解放されることになっている。
「じゃあぼくらも準備を」
「いや、中央街のここまでは波の影響は無いさ」
ブルーノたち潜入メンバーは、先発隊より1ヶ月後にこちらに来た後発隊が来てすぐのころにアクア・ラグナを体験した。
話では聞いていたが、エニエス・ロビーにいては知ることのなかった高潮の脅威に驚かされたものだ。
しかし、造船島の中央街に店を構えるブルーノズ・バーは避難の必要も無く、何の害も受けずに前回のその日を送った。
放送を聞いて騒がしくなる窓の外で、電伝虫は続けて予想時刻は今晩深夜だと告げた。
明け方頃には完全に警戒は解けるらしく、裏町の住人達は避難所で夜を過ごすことになる。
「……ちょっと待てよ…」
「はい?」
どこもバタバタするだろうから今晩は店を開けなくて良いか、と外を見ていたブルーノは、はたと何かに気付いたようで顔をしかめた。
何かを考え込んでいるようで、視線は窓の外から壁のカレンダーへ、そして電伝虫に移って今度はハルアへ。
「ブルーノさん?やっぱり避難するんですか?」
「いや、アクア・ラグナの後は片付けや補修でガレーラも街も忙しくなるから…それだと」
都合が、悪い。
最後の一言は飲み込んだブルーノは、また視線をうろうろ。
電伝虫や時計を気にしつつ、冷蔵庫を漁ってまた何かを考え込む。
「仕方ない」
「???」
「ハルア、簡単に荷物をまとめてくれ。今晩は避難所で一泊だ」
「え?でもさっきここまでは波は来ないって…?」
「今年の波はすごい、気がする」
頭上に?を浮かべるハルアも、「諜報員の勘だ」と至極真面目な顔で言われると信じるしかない。
「さあ、とりあえず2階の雨戸や鎧戸を閉めて来てもらえるか?何か風に飛ばされて窓を壊されたら敵わないからな」
俺は1階を閉めるから、とハルアの背を押すブルーノは、その姿がぱたぱたと階段を上って行くのを確認してから電伝虫に手を伸ばした。
しかしその手が受話器を上げる前に、示し合わせたように電伝虫が鳴き始めた。
「カリファか?」
『ええ。おそらく私もあなたと同じことを考えていたわ。それにアイスバーグさんもね』
「予定が随分早まるが大丈夫そうか」
『心配いらないわ。明日やることが今晩に早まったところで、アイスバーグさんの仕事をキャンセルすることに比べたら楽だもの』
『おいおい、ひでえ言われようだな。ブルーノ、こっちも少し準備するから、そっちを出るのはもう少し後にしてくれ』
「分かりました。身内ごとで騒がしくして申し訳ない」
『何言ってる!言っておくが俺は息子にする件を諦めちゃいないんだぞ?』
「………」
受話器の向こうでニヤリと笑っているであろう男の姿がありありと想像できて、とりあえず苦笑で返して受け流しておいた。
そこで2階の戸締りを終えたらしいハルアが下りてくる気配を感じて、手短に挨拶して受話器を置く。
支度もしたようで、小さなリュックを背負ったハルアはブルーノが電伝虫をそっと元の位置に戻したことに気付いた様子はない。
「あれ?まだどこも閉めていないんですか?」
「ああ、どうせすぐに出ても水路も歩道もいっぱいだ。ゆっくり準備しながら少し時間を置こう」
「そうですか?じゃあお茶でも淹れますね!」
茶葉の缶を見比べる姿を見守りつつ、ブルーノは窓の外に目をやった。
ガタガタと風に鳴る窓ガラスに、よくもまあこんなにも悪いタイミングで…と心の中でため息を1つ。
ワーニング!極秘ミッションに風穴あり
「ああ、レモンが残ってたからレモンティーに…」
「たしかいただいたお菓子もまだ…」
「明日のアレが今晩に変更だ!急げええ」
「避難所の用意もあるんだ!歩くな走れ!!」
「あれ!?あれどこだっけ!?」
「知るかカリファに聞け!!」
あとがき
どったばった。
ついに来ました最初のアクア・ラグナ。そして少年は引き続きドントタッチミー!状態。
さて次の話でまとめられるかな…?
管理人:銘
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