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「…バカ、ガキのくせに自業自得なんて言葉使ってんじゃねえよ」

「パウリーさん、それって左右が逆じゃありません?」

「げ」

履き慣れたはずのブーツに驚いて、誤魔化すように髪をかきあげた。
その動作をハルアがにっこり笑って見守るものだから、背中がこそばゆくなって視線をそらす。
すると女医と目が合ってしまい、意味ありげにニヤリと笑われて、今度は寒気を覚えてまた視線を余所へ。
ウロウロと彷徨った視線はまたハルアを捕えたが、パウリーは一瞬息を止めて、少しばかり…あくまで少しばかりぎょっとさせられた。

真っ直ぐこちらを向くハルアの手には、丁寧に畳まれたシャツとネクタイ。
イコール、上半身が裸な訳で。

「ななななんで脱いでんだお前は!
ハレンチ!いやハレンチじゃねえけど何してんだ!?」

「なあに?楽しそうなことしてるわね」

「うるせえこっち来んな仕事してろハレンチ女!!」

いつの間にやらネクタイを解いてしまってシャツも脱いでしまっていたハルアは、ちょこんとその場に立って腕を広げていた。
自分たちと違う未成熟な子供の体に、まるで懐かしいものを見たような不思議な気持ちになりながらも、心のどこかでぞっとさせられる。
すっかり日に焼けてしまった自分よりずっと白いその肌に、さっきのシーツを見た時のような眩さすら感じた。

「服着ろ服!風邪でも引いたらどうすんだ」

「パウリーさんパウリーさん」

「あ?」

くるりとその場で回ってみせたハルアを見て、ああそうか、と合点がいった。

たしか右肩と、膝や肘、脇腹、頭には数か所。
他にも体中に細かい傷を負ったその身体を覚えている。
ルッチがかばいきれなかったその身体を、パウリーは忘れていない。
おそらく、その場にいた大人全員が。

「…ばーか、わざわざ見せろなんて言ってねえだろうが」

「背中の方も大丈夫ですよ?鏡でちゃんと自分で確認もしましたから!」

「ちっせえ背中だな」

「これから大きくなるんです!」

本人の言う通り、その身体には痕一つ残っていない。
背筋のしゃんと伸びた背中をぱしっと叩くと、手が触れた一瞬でも心臓の動きが感じて取れた。
そのことに妙に感動して、今度はぺたりと手を当ててみると、子供体温の温かさにまた妙に感動してしまった。

「すげ、ぬくい」

「パウリーさんの手もあったかいです。じわじわーっとほっこりですね」

「なんだそれ、意味分かんねえ」

「パウリーさん」

「あ?」

「ふふふ、パウリーさんパウリーさん!」

「んだよ、このやろ!」

背中を向けていたハルアの体をぐるんと回転させて、パウリーの予想通りのへにゃりとした笑っていたその顔を両手で挟んでいじりまわす。
ひゃー!と声を上げながらも、逃げようとせずにされるがままな様子に気分を良くして、おらおらー!と満足がいくまでもみくちゃにし続けた。
デスクに向かって書類を片付けていた女医がけらけら笑っていたが、もうテンションが上がってしまったのか特に意味も無く抱き上げてみたり回してみたりぽこぽこと叩いてみたりと好き放題やってのけた。

ベッドに放ったハルアをまるで犬にするようにくすぐり倒していると、何やら扉の開く音が聞こえたと思ったら、ぼふっ!とパウリーの背中に軽い衝撃が。

ぼとっと床に落ちたそれをみると、この医務室の白い枕が一つ。

「ンマー!身長を計りに来たのに、なんでハレンチなことになってんだ?」

「「アイスバーグさん!」」

「楽しそうなとこ悪いが、ちょっと俺と変わってくれるかパウリー」

「え、…ってこれはそういうあれじゃなくて、勢いっつーか遊びっつーか!!」

「そうかそうか、お前は勢いや遊びでそういうことができる奴だったのか。見直したぞパウリー」

「そういうことじゃなくてええええ!!」

「え?え?」

ニヤニヤと楽しそうなアイスバーグに、顔を赤くしたと思ったら青くしたパウリーが必死に身振り手振りで事の流れを説明しているが、パウリー以外の誰が見ても明らかすぎるほどに見事に遊ばれていた。
よく分かっていないハルアがとりあえず服を着ながら見守って、ネクタイをきちんとしめ終えた頃にやっとアイスバーグのからかいも終わったようだった。

「パウリー、俺がルッチやカクだったら殺されてたぞ?あ、カリファでもアウトだなきっと」

「シャレになりません…」

「はははは!まあ俺だったから減給で済ましてやるさ!」

「「ええええええええアイスバーグさあああん!?」」

「ところで身長はどうなってたんだ?やっぱりパウリーは縮んでたろ」

「いやいやいや。この前の健康診断の時となーんにも変わってませんでしたよ(え?減給って冗談だよな?え?)」

「ハルアはまだか?ほら来い、見てやるから」

「はい!前に計ったのはいつだったでしょう…?」

どこか緊張した様子のハルアの頭頂部に計りを合わせたアイスバーグは、目盛りを読み上げてニヤッと笑った。



日に向かう苗木に拍手を



「思うんですけど、俺ハルアが声変わりとかするのが予想できないんですよね」
「ンマー分かる分かる。反抗期って来ると思うか?」
「お父さんのパンツと一緒に洗濯しないで!ですか?」
「(ガタガタッ)」
「それそれ、ってアイスバーグさん!?」
「……眩暈が、した…」
「え?え?」



あとがき

成長期真っ盛り!
この頃はすぐに服も靴も小さくなっちゃったなあ…。(しみじみ)
そう言えば、パウリーさんと少年を絡ませようとすると、気付けば犬のじゃれあい的な方向に向かってしまいます。
この2人には、もうそういうイメージが自分の中で定着しちゃってるんですかねえ。
管理人:銘


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