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ぷるるる、ぷるるる

「ん……」

電伝虫のコール音でルッチが目を覚ますと、まず目の前の自分の顔にぎょっとさせられた。
すぐに入れ替わったことを思い出して一息ついたが、電々虫をとろうにもハルアがパジャマを握ったままなのでそうも行かない。
起こすこともないだろうとそのままにしておきたかったが、電伝虫はいつまでもしつこく鳴き続けた。

「ハルア、ハルア」

「んーんー…」

「はあ…。おい、こっちまで来い」

こんな朝から誰だとイライラしながらデスクの上にいた電伝虫に声をかけ、のそりのそりと近寄って来たところを引っ掴んで受話器を取る。

「はい」

『あ、こんな朝からゴメンねハルアちゃん。かけた俺が言うのも何だけど、絶対寝てて起きないと思ってた』

「大将青雉…いえ、クザンさん」

久しぶりに聞いた声に驚きながらも、ルッチはハルアの声と話し方を勤めた。
正直に言うとハルアの家出騒動の件で気まずくて堪らないのだが、残念ながらむこうはハルアとルッチが入れ替わっていることなど知るはずも無い。

『あの後平気だった?俺の言う通り皆待っててくれたでしょ?』

「…あなたには、感謝しています」

『何回も言うけど、おじさんはちゃーんとハルアちゃんの味方だからさ、また何かあったら言いなさいな』

「………」

「でね、本題なんだけど」

「?」

『えーっとなんだ、うーん…。なんか変な新聞を見たりとか、噂とか聞いてない…?』

「どうしたんですか、ついにショタコン疑惑でもすっぱぬかれましたか?」

「…………」

「……まさか」

ついつい地の口調に戻ってしまったルッチだったが、冗談で言ったつもりが、いきなり無言になったクザンにそれどころではなくなってしまった。
クザンの方も相当参っているらしく、自分の話している相手が普段なら使うはずもないような単語を口にしたことに気付かずに沈黙を貫いた。

「…その記事はどこまで?」

『全部新世界の出版社で、今は完全にこっちで検閲・回収済み…』

「いったいあなたは何をやっているんですか!?世に広まらなかったとは言え、あなただけの問題で済まないことでしょう」

『うん、もう本当に返す言葉もありません…』

「いつも適当な方だと思ってはいたが、ハルアのことに関しては鬱陶しい程にガードが堅いと信じていたのに…!」

『ホントすいませ…ん?ハルアのことに関しては?』

「ちっ…、何でもありません」

「むー、どうかしましたか…?」

『(舌打ちされた!?)…ちょっと、今のロブの声だよね?待て待て、もしかして隣で寝てるの?』

いつの間にやらどんどん展開は面倒かつ泥沼な方に向かっている。
受話器の向こうでクザンはお父さんはそんなこと許しませんよ!的なことを焦った声で投げかけ、パジャマを握ったままのハルアは寝惚け眼でむくりと体を起こした。
それでも意識は半分夢の中の様で、目をこすりながらもまだむーむーと唸っている。

もはやどっちを構って良いのか分からなくなったルッチは、一息ついてから受話器を持ち直して、誰が聞いても違和感の無いような完璧なハルアの声で話しかけた。

「クザンさんのおかげでルッチさんとも仲直りできました」

『うんそれは良いんだけど、あいつになんか変なことされてない!?』

「下衆なこと考えないで下さい。ルッチさんはそんなことしません。
心配はいりませんよ、これからずーっと一緒にいるんですから」

『ごめん寝惚けてるよね?寝惚けてるって言って!』

「…大事に、大事にしてもらうんです」

『ハルアちゃん?』

「…失礼します」

クザンはまだ何か言っていたが無視して受話器を置き、少々話しすぎたと頭を軽く振った。
隣の目がまだ完全に開いていないハルアの髪を撫でて、今は慣れてしまった小さな体で、本来は自分のものであるハルアの頭を抱え込むように抱きしめる。

「心配するな。俺が、どうにかする」

「んー…」

「お前の体を傷付けるものか。だから、今はまだ眠っていてくれ」

「あ…」

「ハルア」

「あ、あぶないハットリさあああああんっ!!!!」

がごんっ

「……っ!!!?」

突如よく分からないことを叫びながら顔を上げたハルアの頭が、油断しきっていたルッチの顎を強打。
次の瞬間、ルッチの目に映ったのは顎を真っ赤にして背後に倒れ込むハルアの小さな姿。

戻ったのかと確認する前に、彼も頭痛を感じてベッドに倒れ伏した。

その後、案外あっさり戻ってしまった2人を見てブルーノがしたことは、ハルアの赤くなった顎に湿布を貼ることと、ルッチに拳骨を落とすことだった。



この情けない声はさあどっち?



「ハルア−!無事じゃったかー!」
「うるせえ黙れ」
「なんじゃ戻っとるんか。それはそれでつまらんのう」
「そうか、ならお前とパウリーの中身でも入れ替えてやろうか?」
「ワシもハルアと入れ替わりたい!」
「とりあえず仕事行けお前ら」



あとがき
今回の入れ替わり展開は、管理人の趣味70%・ルッチさんとクザンさんに何とかして話をしてもらいたかった30%、ってところでしょうか。
ほっとんど趣味です。中身なり能力なり性別なり、入れ替わりってどうしてこんなに(書いてて)楽しいんだろう…!
管理人:銘


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