少年の両親が存命だったら [ 9/98 ]
「こんにちはー」
「あら、こんにちはクザンくん。今日もおっきいですねえ」
「奥さんお久しぶり。まあそりゃあね、いきなり縮んでても怖いでしょうに」
「おーいお客さんですか…って、ああ、いらっしゃいませクザンくん」
「マスターもこんにちは。今日もコーヒーが良い匂い……って言うかさ」
「「はい?」」
「二人してクザンくんって……やめない?」
「「やめません(にっこり)」」
何だろうね、ホント調子狂うわー。
カウンターをはさんでこの二人と話をするのは、もう何度目だろう。その度に美味いコーヒーや軽食をご馳走になりながら会話するけど、“クザンくん”だけは…慣れないね。マジで。あと言っとくけど、この二人俺より年下だからね。
「ただいまです!あれ、クザンさんいらっしゃいませ!」
「なまえちゃん久しぶり。こっちおいでおいで」
でも、なまえちゃんに会うためなら全然気にならないよね。うん。
おつかいにでも行っていたのか、買い物袋を抱えて外から帰って来たなまえちゃんに頬を緩めて腕を開く。センゴクさんがうるさくて2週間は来れなかったら、しっかりイチャイチャさせてもらわないと。
「その前に父さんのところおいでおいで」
「え、ちょ…何この人…」
「何ですかクザンくん、父親を差し置いてイチャイチャなんて許すと思いますか」
「差し置いてって言うか、あれだよ、俺しばらく来れなかったでしょ?その分もなまえちゃんで癒させてほしいじゃないの」
「それならぼくだって今朝からなまえをだっこしてませんが」
「ああダメだマスターといまいち会話できてないわこれ。奥さんどうにか…」
「おかえりなさいなまえ、おつかいありがとうございます(ぎゅー)」
「えへへ、肉屋のおじさんがちょっとサービスしてくれました」
「それは嬉しいです。きっとなまえが頑張り屋なおかげですね。お母さんはとっても誇らしいですよ(ぎゅぎゅー)」
「あらら、俺とマスター差し置いてイチャイチャしてるし。奥さん奥さん、なまえちゃん次俺に貸してね」
「ご心配なく。あなたたちの分も私がしっかりなまえを抱きしめますからね」
ちょっとぉ……。
いくら親子だからって、独占はダメだと思うんだけど。せっかく来たのに、まだなまえちゃんに指一本触れてないからね、俺。頭すら撫でてないからね。
じりじりと機会を窺うけど、相変わらず奥さんがぎゅぎゅーっとなまえちゃんを離さないし、マスターがさりげなくディフェンスしてるし。
あーあー、この二人、絶対俺にいやがらせして楽しんでる節があるよなぁ。
「お母さん、お母さん」
「はい、どうしました?」
「ぼく、クザンさんともぎゅーってしたいです」
「あら」
…何それ、おじさんキュンときたんですけど。
仕方ありませんねえ、となまえちゃんからあっさり腕を離してくれた奥さん。悔しがったり惜しんだりする訳でもなく、むしろ楽しそうなところを見ると…うん、やっぱり俺遊ばれてるな。
けどそんなことを差し引いてあまりあるなまえちゃんの可愛さのおかげで、ホント色んなことがどうでもよくなる。あー可愛い。なんでこんな癒されるかなこの子は。
「はいどうぞクザンくん。間違っても肩車なんかして頭を天井にぶつけさせないでくださいね」
「はいどうも。俺だって自分の身長くらい分かってますって」
「クザンさん、おっきいですもんねえ!ぼくも大人になったらそれくらいに…」
「え、やめて」
「やめてください」
「本当にやめてください」
「!!?」
ちなみに、上から俺・マスター・奥さん、ね。奥さん拒否しすぎ。
「いくつになっても、お母さんがぎゅっとしやすい身長でいてくれると助かります」
「父さんも同意見ですよ。クザンくんみたいに大きくなりすぎると、手だって繋ぎにくくなりますし、頭も簡単に撫でられなくなりますしね」
「むむむ…それは…ぼくもイヤです…」
「家族でほんわかしてるとこ悪いけど、マスターさりげなく俺に失礼じゃない?」
「いえいえそんなそんな」
「クザンさんとお父さんは仲が悪いですか…?」
「「超仲良し(です)(だよ)」」
シュン…と悲しげななまえちゃんの様子に、マスターと肩をくんで声まではもった。何これ。いまだかつてない息の合い方なんだけど。
まあ言っちゃえば、なまえちゃんのこと大好きって点では仲間な訳だし、二人に負けないくらいに俺だってこの子の幸せを祈ってる。成長を楽しみにして、一緒に居たくて、愛しくて愛しくて、将来のお嫁さんにちょっとムッとしたりする。
あーあ、俺もこの子の“家族”だったら良かったのにね。
どういうポジションかはよく分からないけれど、この三人の親子の中に自分がいる空間はひどく心地が良い。ちょっと遊ばれてるけど。
「クザンくん、とても優しい顔をしてらっしゃいますね」
「え、嘘。俺の優しい顔とか気持ち悪いでしょ」
「はい。正直」
「マスター俺のこと嫌いでしょ。ねえ嫌いでしょ」
「…もしそうであっても、あの子のことを想ってくれる方は誰でも私たち親子の友です」
微笑んだマスターは、なまえちゃんのあのへにゃりとした笑い方に似ていて、遺伝子と言うものの存在を改めて思い知った。あ、でも笑い方に関しては奥さんの方が似てるのかな。
親子だなあ。ホント親子だなあこの人たちは。
俺はそんな幸せな親子の友であるらしい。
「……はー、なまえちゃん。おじさん、今結構幸せよ」
「???ぼくもクザンさんといられると嬉しいですし幸せですよ?」
「………マスター、奥さん。やっぱりなまえくん貰って行って良い?」
「「あっはっはっはっ」」
「ちょっと!笑いながら人のコーヒーを砂糖山盛りにしない!!」
しあわせの仮定虚夢ではない。ただし真実でもない。「ところでクザンくん。最近あの子に海軍の話をよくしてくれるそうですね」
「いつも楽しそうに私たちにも教えてくれるんですよ」
「(ぎくっ)」
「クザンくんの部下たちはあまりお茶を淹れるのは御上手ではないとか」
「なまえがいるとお仕事もはかどるとか」
「(ぎくぎくっ)」
「クザンくん、どうして目を逸らすんですか」
「クザンくん、随分と汗をかいてらっしゃいますね」
「いやもう…ホント…勘弁してください…」
「(クザンさんとお母さんたち、楽しそうだなあ…!)」
あとがき
しあわせのかてい(仮定)
もし両親が存命なら、まず島から出られるかどうかが問題に(笑)
天然っぽいけどしっかりしててちゃっかりしてて、極度の親バカだと思ったら、可愛い子には旅をさせよタイプでもある。
信頼するに足りる人物だと見極めれば少年のことも託してくれますが、クザンさんで遊ぶのも楽しいので「まあもうちょっとこのままで良いですよね(にっこり)」とか考えている恐ろしい両親。
クザンさん頑張って!もうちょっとで連れ出せるから超頑張って!←
管理人:銘
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