今日も今日とて [ 23/98 ]
「じゃじゃーん、今日はセーラーにしよ。ね」
「せー…せーらー…」
「あダメだ寝惚けてるわ。なまえちゃーん、おはようってー」
聖地での何度目かの朝で、今日もなまえはクザンの部屋で目を覚ました。
家出中のために持参して来たものはほとんど無かったので、ここでの服や生活品はクザンがそれは楽しそうに買い集めてきたものがほとんど。保護者権限で好きなものを与えられるということで、随分と彼の趣味に偏った物ばかりだったりするが、別段趣味が悪いわけではないので、今のところは誰も文句は言ってこない。(一部七武海を除く)
今朝も時間をかけてクローゼットを漁っていたクザンは、紺地に白いラインの入った子供服のセーラーを引っ張り出してきた。その癖自分はいくつも同じものを持っているいつもの服なので、彼の支度はあっさり終わっている。
「おはようございますクザンさん…ふあ…」
「はいおはよう。じゃあばんざーい」
2度寝に入りかねないような寝惚け眼のなまえのパジャマを、両腕を上げさせた状態で有無を言わさずスポっとはぎ取る。途端に意識をはっきりさせてあわあわするなまえに、今度は選んだセーラーを被せてしまう。きちんと着ようともごもごしている間にコロンと転がして下もはぎ取れば、未だに頭が出てこないセーラーの中からくぐもった悲鳴が聞こえた。
「はい次靴下ねー」
「は、穿けます穿けます!自分でやりますから!」
いつにも増してご機嫌なクザンにやたらと手を出されつつも着替え終わると、サイズからデザインまで、自分の見立てに満足したらしいクザンがうんうんと笑顔で頷いている。
「白も良かったんだけどさ、その紺も可愛くて」
「紺色はあんまり着ることが無かったんで新鮮です!でも、いつもすいません…」
「こらこら謝らないの。俺だってこうやってなまえちゃんといちゃいちゃできんのが幸せなんだからさ」
「良いねえ、わっしらも混ぜなよぉ〜」
「「!!?(ガタガタッ))」」
ベッドの上にいたクザンとなまえの横に、ちょこんと腰かけているボルサリーノ。そして“わっしら”の言葉通り、サカズキがクローゼットを開けて神妙な顔をした。
驚いて転がり落ちそうになるなまえの背を支えたクザンが嫌そうな顔をして見せても、どこ吹く風で2人は動かない。
「お前らいつもいつも、ホントにいつ入って来てんの?」
「今日はついさっきだよぉ。なまえちゃんおはよう〜」
「あ、おはようございますボルサリーノさん、サカズキさん!」
「おはようさん。…しかしクザン、このクローゼットの中身、全部お前が買い揃えたんか」
「そりゃあな。何、趣味悪いとか言わねえだろうな」
「えへへ、このセーラーもクザンさんが揃えてくれたんです」
へにゃりと笑うなまえの広い襟を、ボルサリーノが可愛い可愛いと遊びながらじゃれる様子を、サカズキはやはり複雑そうな顔で眺めてクザンへ向き直った。
「あれをお前が嬉々として買い集めとる様が……きつい」
「オー…それを言っちゃあおしまいだよ君ぃ…」
「お前らだってちょくちょくお菓子やら服やら買ってくるくせに…!」
「皆さんセンスが良いんで羨ましいです。いただくものがどれもとっても素敵で嬉しいのですよ」
「ほらもうこんなこと言われるからまた買っちゃうんだよ…っ!なまえちゃんマジで恐ろしい子っ」
「ひゃう、むぐぐ…っ!」
「クザン、締まってる締まってる」
「お、やべっ」
勢いで抱きしめた腕を離せば、その瞬間にクザンの脇腹に綺麗に蹴りが入る。少しむせているなまえの横で、こちらも犯人を睨みながらむせこんだ。犯人のボルサリーノは長い脚を組み替えながら「ごめんねぇ、どうも長いもんで当たっちゃったよぉ〜」とにこやかに笑って睨みを受け流している。
「バカなことやっちょるなお前らは…」
「あれ?クザンさんまでどうしてむせて…?」
「良いの良いのぉ。なまえちゃんは気にしないでねぇ」
「お前らね…ってノック?」
クザンの言葉を遮るように、ノックの音が響く。大将の3人はまさか七武海の誰かかと構えたが、返事を待たずに開けられたドアの向こうには正義のコートを羽織った2人の人物が。
「おつるさんに…ドレーク少将?」
「朝から元気だねあんた達は。今日はなまえを私の所に呼ぼうと思って早めに声をかけに来たんだけど、もう予約済みかい?」
「良いんですか?喜んでお邪魔させていただきます!」
「俺は…いえ、自分はつる参謀に、なまえの所に行くから一緒に来ないかと誘われて…大将青雉の自室だとは知らず」
「おやぁ?なまえちゃんドレーク少将とも仲良くなってたのぉ?交友関係広いねぇ〜」
「はい!ドレークさんには以前に助けていただいて、それからお話するようになったんです。今はドレークさんの紳士っぷりを勉強中なのですよ!」
「いやーその節はホントに
うちのなまえちゃんがお世話になっちゃってー」
「クザンおよし。あからさまに威嚇するんじゃないよ」
「“うちの”をやたらと強調しとったぞお前」
「は…はは…(冷気が…足元に冷気が…)」
和気あいあい(?)と話をしている内に、いつもクザンが部屋を出る時間がやって来た。彼は仕事に間に合うギリギリまで部屋にいるため、三大将の他の2人やドレークも、もう急がなければ間に合わないことになる。
なまえを招いたつるは時間に余裕があるらしく、ボルサリーノに遊ばれていたなまえのセーラーの襟を正しながら、慌てている4人をせかす。
「皆さん、今日もお仕事頑張ってくださいね!」
「急ぐぞ!3人揃って遅れるなんぞ、考えたくもない…!」
「いやあ、わっしは心配ないんだけどねぇ。じゃあなまえちゃん、またねぇ〜」
「じゃあ行くけど…おつるさん、なまえちゃんのこと頼みます」
「分かってるさ。ほらほら行きな。センゴクの血圧を上げるんじゃないよ。ドレーク少将ももう行きな」
「はい。ではこれで…ああそうだ、なまえ」
「はい?」
「今日の服は始めてだろう?よく似合っている。可愛いな」
「あ、ありがとうございます…!」
「「「…………」」」
頬を染めながらもぱあっと笑顔になるなまえの頭を撫でて部屋を出て行こうとするドレークの肩を、ずん…っと重量感のある効果音付きで、3つの手が掴んだ。
その手の持ち主たちの方へ振り返る間も無く、そのままずんずんと押されるようにして4人部屋を出て行ってしまった。ちなみに、重い重い無言で。
「おやまあ、嫉妬深い子たちでなまえも困ったもんだね」
「嫉妬、ですか?」
「後で3人…いや、中将にもお茶を淹れてあげておいで。朝から気力を使っただろうからね」
よく分かっていないらしいなまえの背を押して、もはや談話室と化していたクザンの部屋を2人で出れば、曲がり角の向こうから隠しもしない気配がいくつか。
つるがもう一度、おやまあ…とため息を吐いて、なまえの肩に手をやって先を急かす。計らずとも、先に出て行った4人のような状態になりながら、彼女の自室への回り道を考えながら歩く2人はそれでもしっかり笑顔だったとか。
今日も今日とて愉快に平和に物騒に
あとがき
ふうと様にいただいたリクで、「連載番外編で七武海か海軍との絡み」でした!
三大将に連行されるドレークさんが書きたくてこんなことに…(え)
海軍のメンバーは平和で何よりです。お仕事してるの?大丈夫なの?な勢いで皆でわいわいさせられたら良いのになあ…!
ふうと様、この度は企画へのご参加+素敵なリクありがとうございましたー!海軍・政府メンバーは何度書いても楽しいですうへへ…!
……しかし資料の少なさゆえに未だに口調が迷子なんですけど…ね…(遠い目)
管理人:銘
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