その23-1 [ 43/50 ]

「ルッチ、長官が…うわ」

司法の塔内の扉から中庭に顔を覗かせたカクは今自分で開けた扉をまた閉めかけた。
しかしそこは自分にストップをかけ、中庭に踏み出す。
そんな彼に気付いたのか、中庭になぜか集まっていたたくさんの猫が一斉に耳をぴくりと動かした。そんな猫団子の中心には、へにゃりどころかふにゃふにゃになっているハルア。
そしてその猫団子+ハルアの前に、悪役の如く仁王立ちしているのはルッチ。人獣化して巨大になった彼の影は、檻の様に猫たちをすっぽりと包んでいる。

「…何をしとるんじゃお前は」

「黙ってろ。もしくはペットボトルに水をつめて来い」

「あれって効果はあまり無いらしいぞ」

「なんだと…っ」

そんなことも知らんのかバカめ!
そんな嘲りの声はカクからではなく、ハルアを取り囲む猫たちが発する空気からひしひしと伝わってくる。それをしっかりキャッチしたらしいルッチが、牙をむいて威嚇しても逃げることもしない。むしろハルアを囲む輪が縮まって、猫団子はいよいよ巨大な毛玉と化しつつあった。

「ぬくぬくのもこもこですよー…」

「しかしエニエスロビーにも野良猫がこんなにいたんじゃのう。毛並みも良い所を見ると、誰かが世話しとるのか」

「そんなことはどうでも良い。失せろっ」

「「「ふしーっ」」」

「ルッチさん、猫さんはお嫌いでしたか…?」

猫が嫌いと言うか、ハルアの周りに寄るものはみんな嫌いと言うか。
しかもそれに対してハルアが極楽にでもいるかのような幸せな表情をしているとなれば、特に。
この状況に陥る前は、ルッチとハルアの2人は散歩をしており、この中庭で“猫の集会”と言う名の猫団子に遭遇した。
想い人に瞳を輝かせながら「少し見て来ても良いですか?」と言われれば、この男が断る姿を誰が想像できるものか。案の定、2人だけの空間に現れた邪魔者集団を疎ましく思いながらも首を縦に振ってしまい、一目散に駆け寄ったハルアは今や猫団子の核になっている。

「それで人獣化までして取り返そうと躍起になっておったのか」

「グルルルル…」

「「「ふしゃーっ!!」」」

「猫同士仲良くせんかお前たち」

「猫じゃない。豹だ」

「豹さんって猫さんじゃなかったんですか…っ!?」

「ちが、いや、猫なんだがそんな毛玉共とは」

「この状況においては猫も豹も同レベルに見えるがの」

むしろ、ハルアの傍にいれば威嚇はされても攻撃はされないと分かっているのか、余裕の表情でくつろぐ猫たちは、じりじりと嫉妬の炎に焼かれている豹よりも優位に見える。
今すぐにでもハルアにすり寄る毛玉を蹴散らしたいところだが、そんなことをすれば悲鳴に近い制止の声が上がるのは目に見えている。

「えへへ、くすぐったいですよ」

「触るな」

「え!あ、すいません!」

「いやハルアではなく…舐めるな!すり寄るな鳴くな失せろ!」

「何と言うか…不毛じゃのうおぬし…」

ぎろり!と刺さるような視線を受け流したカクが、「どれわしも…」と猫団子に近付く。
もはやハーレムと言っても過言ではなくなっているが、その中の1匹の背を撫でようと腕を伸ばした。

ぺちんっ

「え」


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