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「ええ!?ハロウィンって、ぼくもお菓子をもらっても良いんですか!?」

街全体がお祭りごとが大好きなW7は、10月の中旬にはすっかりハロウィンのムードに包まれていた。
子供たちはどの家ならお菓子をもらえるかの相談で忙しく、親はそんな子供たちの仮装衣装作りに手間を惜しまない。
なおかつ、子供たちが家に来た時のためのお菓子の準備も忘れずに。

ハルアはW7に来てからの初めてのハロウィンになるのだが、彼がせっせと準備するのはお菓子ばかり。
2日前になっても、仮装について考えている様子が見られないので、まさか忘れてやしないかとブルーノが声をかけると、返って来たのは驚愕の表情。

そこで冒頭のセリフになる訳なのだが、驚いたのはブルーノの方である。
「ぼくもお菓子をもらっても良いのか」と聞かれたら、そりゃそうだろうと答えるしかない。大人でも仮装する者は多いし、お菓子をねだる者だっている。
そんな中で、ハルアにお菓子かいたずらかと問われて、お菓子を差し出さないような奴が、この街にいるかどうか怪しい。……お菓子が無かったとしても、ハルアがいたずらをするようには思えないが。

「今まで、他の子供たちと一緒にお菓子をもらいにまわらなかったのか?」

「むむむ…ぼくの家のハロウィンは、毎年島中の皆さんに配るためのお菓子や料理作りで大忙しでしたから…」

「ああ…なんとなく分かった…」

両親が共に料理人だったハルアの家は、毎年ハロウィンの日は子供たちの最高のターゲットだったらしく、小さな島だとは言え、島中の子供たちが順番にドアをノックしてお菓子をねだった。
なおかつ喫茶店の方もいつもより客が多くなり、その手伝いをするハルアに、仮装をして駆け回る時間は無かったようだ。
その内に、すっかり「自分はハロウィンではお菓子を与える側なんだ」と思い込んでしまい、今年も仮装をするという考えすら無かったと言う。

「考えてみると、ぼく『Trick or treat』って使ったことありませんねえ」

しみじみとそう言いながらも、カボチャの中身をくりぬく手は休んでいない。
既にクッキーやらマフィンやら、配るつもりだったらしいたくさんのお菓子が並んでいる。たしかに、この街にもハルアのお菓子を欲しがる者はたくさんいるだろうが、それだけで終わらせてしまうのではつまらない。
すっかり伯父としての顔も定着してきているブルーノからすれば、やはり他の子供たちのようにハルアにも楽しんでもらいたい。

「なら今年がハルアのハロウィンデビューだ。衣装なら今からでもなんとかなるから、当日は街中を練り歩いてやれば良い」

「ハ、ハロウィンデビュー!」

「じゃあ何の仮装にするか…メジャーなのは狼男に吸血鬼にゴースト…ああ、童話ものも人気だって聞いたな」

デザインを考えながら、同時に必要な布や装飾の調達について考え始めるブルーノは、まさにハロウィンの時期の親そのもの。
自分の子供をいかにしてクールかつキュートに飾り立てるかで、こっそりと対抗心を燃やす一般人の親たちと、なんら変わりは無い。

何が良いかと、少し楽しそうにアイデアを次々にあげていくブルーノにつられたのか、ハルアも嬉しそうにその話を聞いている。
視線をふと手元に下げると、そこにあるのは、綺麗に中身をくりぬいたカボチャが1つ。

「ブルーノさん!これをかぶってジャック・オ・ランタンさんに」

「却下」

「!!?」

何かの余り布らしき黒い布を持ち出したブルーノは、やけにやる気のこもった目でにっこりと笑って見せた。
即答で出番をつぶされた、可哀相な中身の無いカボチャは、その後にあます所なくお菓子にされたとか。


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