その18-1 [ 33/50 ]

※これは3万打企画での小説「出会いに乾杯(麦わらの一味)」からの派生です。
簡単に説明すると、少年がクザンさんに海軍に誘われる前に、麦わらの一味(空島から下りてきた直後)に仲間入りしてしまったというIF設定。
連載本編のルッチさんとはかなり別人になっちゃってますよ!

「出会いに乾杯」から少しだけ時間が過ぎて、既に海列車の中です。色々とすっ飛ばしてます…。







波の荒れた景色が流れて行く。
海列車の走行音と外のひどい嵐の音が混ざり合って、私一人だけの車両に虚しく響き続けている。
不快ではないし、むしろ思考を邪魔してくれてありがたい。
今頭に浮かぶのは、彼らのことばかりだから。

「………ここは………さんは」

「…ハルア?」

せっかく心が落ち着き始めたというのに、耳はありえない声を聞いた。
ここにいるはずのない人間の声が、隣の車両から。しかもその車両にはCP9がいるはずなのに。
あるはずがない。あの子は本社にすら来ていなかったのに。
船長さんの話では、私が戻った時のために宿屋に残してきたと、そう言っていたのに。

まさか、と思って扉に耳を近付けると、あの子の存在を証明付ける声が。

「何も心配することはない、ハルア」

そんな、バカな。

「待ちなさい…っ!どうしてその子がここにいるの!?」

扉を開いた途端に向けられる視線と殺気。
そこには思った通り、CP9の四人と子供が一人。
向けられた視線の中で唯一あたたかいその視線は、ここにあってはおかしいもののはずなのに。

「ロビンさん!」

「約束が違うと、そう言いたげだなニコ・ロビン」

そう言いながら、視線をハルアに戻した男はロブ・ルッチ。
CP9のリーダーであり、十三歳にして殺戮兵器と呼ばれた生粋の血狂い。
その男が、今は座席に座らせたハルアの足に靴を履かせていた。

「…その子をどうするつもり」

「一種の“保護”さ、ニコ・ロビン。
この子はまだあの一味としては認められていない。海賊船に乗せられていた一般人の子供を保護することなら、お前との約束にも支障はあるまい」

「違います!ぼくは自分で納得して麦わらの一味に入りました。だから保護ではなく連行です」

「そこはこちらの決めることだ。それに大将青雉からも保護の命令が出ている」

「クザンさんが…?」

ひどく丁寧な手付きで両方の靴を履かせ終わったロブ・ルッチは、今度は手を縛っていた縄までも解き始めた。
そこでハルアの隣にあるものに目をやると、ちょうど子供が一人入る程の真っ黒な棺桶。背負うためのベルトがついており、たしか海列車に乗り込むときにはこの男が担いでいたはずだ。
つまり、乱暴に全身を縛られた長鼻くんやもう一人の男とは違い、手足を縛る縄の下には肌を傷付けないようにと布が巻かれ、人目に付かないようにご丁寧に棺桶のベッドまで用意され、今はその縄や棺桶からも解放されている。
まさに、別格の優遇。

保護という名目にしても、これは扱いが良すぎるのではないか。
そもそも、あの男があの子にわざわざ靴を履かせてやる必要がどこにある?

「ルッチさん、ぼくはこれからどうなるんでしょう」

「さっきも言ったろう、心配することは何も無い」

「でも、ルッチさんたちは政府の方なんでしょう?それにこの海列車も司法の島に向かっているって…」

「太陽の沈まない島だ。きっとお前によく似合う」

…本当に、何がどうなっているのかしら…。
殺戮兵器が発するにしては、歯の浮くような甘い言葉だ。
甘いのは言葉だけでなく、声、仕草、視線。
思い違いではない程に、一挙一動に感情が見て取れた。
そんなバカなと思った矢先に、私や他のCP9のメンバーが見ている前で、平然とハルアを抱きしめて額にキスまでして見せた。
しかもそれだけにとどまらず、潤んでいたハルアの眼尻に舌まで這わせて、驚いて身を引く小さな姿に口角をきゅっと上げる。

「ひゃ、わ、ルッチさん!?」

「大人しくしていれば良い。そうすれば俺が守ってやる」

「ルッチさん…?」

困惑した様子のハルアを両腕で抱きしめるその男の顔は、恋に落ちた人間のものと呼ぶよりかは、獣のそれと言った方が的を得ていた。


+++++++


「どこへ、行く?」

そう背後からかけられた声は低くて、それなのに恐怖よりも先に頭をしびれさせる不思議な声。
W7では腹話術のせいでおかしな高音だったのに、何がどうなってここまで変わってしまったんでしょう?

ぼくが寝かされていたらしい棺桶(!)を開けたのは彼で、捕縛されてさあ監獄行きかと思いきや、まさかの優しすぎる態度と親しすぎるスキンシップ。
これではまるで、……その…。

「どこへ行けると思った?その窓から」

「あっ」

ぐいっと腕を引かれれば、今まで身を乗り出していた窓から引き離されてしまいました。

先程隣の車両から現れたロビンさんについて、ルッチさんたちのいる第二車両から第一車両に移ったのは良かったんですが、どうにかW7に帰れはしないかと悩んだ末に窓を開けたわけです。(ロビンさんからは何度もやめなさいと言われましたが)
窓の外は荒れ狂う海。
それでもルフィさんたちの所へ戻りたくて、ごくりと喉を鳴らした瞬間、背後から声をかけられて今に至ります。


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