カク [ 24/50 ]

気が付くと、カクは見知らぬ地にぽつんと立っていた。
ぎょっとして身構えたが、そこで彼はこれは夢だと気が付いた。
ベタな手段だが、頬をつねってみると、思った通り何も感じない。

夢なら何も怖くないとばかりに散策を始めたカクは、視界を遮るものが少ないその土地をひたすらに歩いた。
どうやらたいして大きくも無い島らしく、ぽつぽつと家や畑があるばかり。
天気も良く海も穏やか。
呆れるほどに平和な夢に、これは本当に自分の夢なのかと疑ってしまった。

たしかベッドに横になる前は、ブルーノの店でいつも通り酒を飲んで帰宅し、少しばかり読書をして…。
ああ、そのまま眠ってしまったか…。

「お兄ちゃん、こんにちは」

「うおお!?」

完全に自分ひとりだと思い込んでいたので、背後から聞こえた声にカクは不覚にも飛び上がった。
キャップをかぶり直して振り返ると、そこには小さな小さな子供が立っていた。

「お兄ちゃんおそとの人?」

「お、おそと?」

「ここの人じゃないよね…ですよね?」

「ああ、そういう意味じゃったか!
ワシはそうじゃな、ちょっとした迷子みたいなもんじゃ」

まいご?と聞き返してくる子供は、見たところ5・6歳か。
真っ黒の短髪に、くりくりと見上げてくるダークブラウンの瞳が、不思議ととても心地良かった。
なんとなく見覚えがあるような無いような。
そんな曖昧な感覚を追い払って、子供を抱き上げる。

「お兄ちゃんはおはな面白いねー…ですねー?」

「わはははは!さっきからなんじゃその敬語は!普通に話して良いんじゃぞ?」

「これねー、パパとママののマネっこなんです。上手く言えると褒めてくれるんですよー。
…できてるですか?」

自分の鼻を控えめながらも好奇心いっぱいで触る子供は、へにゃりと自慢げに笑って見せた。

「惜しいのう。最後のは、できてますか?の方が良いじゃろうな」

「できてますか?」

「そうそう。今日は良い天気ですね?」

「そうですね。きっと明日も良い天気になりますよ!」

「おぬしかしこいのう!パパとママも嬉しかろう!」

そう言って撫でてやれば、これでもかと言わんばかりにぱあっと表情を明るくする子供。
きゃあきゃあと笑いながらじゃれ合って、さながら気分は兄弟のようだった。
このおかしな夢が覚めてしまえば、きっとこの晴れた青空ではなく、見慣れた色気の無い天井が広がっているのだろう。
そこまで考えたカクは、なんだかひどくバカバカしく思えて考えるのをやめた。

夢の中で、目が覚めた後のことを考えるなんて無粋じゃないか。

「ワシはカク。おぬしは?」

「ぼくは」

子供が口を動かしたが、声が聞こえない。
なに?と聞き返そうとカクが口を開いた瞬間、開いたのは彼の両目だった。
目の前に広がるのは、見慣れた色気の無い天井。染みが人の顔に見える不気味な天井だ。
何かおかしな夢を見た気がするが、彼は結局何も思い出すことは出来ずじまいだった。
適当に朝食としてパンを腹に納めて、昼休憩の話のネタになるかと考えながら家を出る。

「おかしな夢を見たんじゃが、あれはなんじゃったんじゃろう」

昼にやってくるあの子にそう言えば、きっと興味を示して最後まで聞いてくれるだろう。
まあ内容は全く覚えていないのだけれど。
それでも、あの子はいつもの敬語で先をうながしてくれる。

…今、何か思い出しそうだったが、はて、何じゃったかな?


[*prev] [next#]
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -