6/2-1 [ 21/50 ]

「ルッチさーん!カクさーん!」

「クルッポー、ハルア…!」

「お疲れ様です!では!(ばっ)」

「!!?」

昼休憩に入ると同時に聞こえてきた嬉しい声に、いつものように腕を伸ばせば空を切った。
すかっ、と。それはもうすかっと。
いつもなら昼食を届けた後は休憩が終わるまで一緒にいるのだが、腕の中に閉じ込めるはずだった小さな体は既に遠ざかり、ガレーラの門の向こうへと消えて行った。

「なんだあ?ハルア今日は帰っちまったのか」

「…ふられたのう、ルッチ」

「うるせえ黙れ折って潰して捨てるぞバカヤロウ、クルッポー!」

「表情がマジすぎるぞおぬし…!」

いつもと様子の違うハルアにパウリーも首を傾げて見送ったが、カクの野郎の言葉は聞き捨てならない。
ふられた?俺が?ハルアに?
そんな訳あるかバカヤロウあれだ何かブルーノに用事でも押し付けられていて仕方なくだきっとそうだそうでも無ければ何の説明も無しにひらりと背を向けるなんてことは無いはずだそうだきっとそうだそうに決まってるよしそれなら仕方な(以下略)

「カク、ルッチが遠い目になってるぞ」

「傷心のバカは放って置いて飯じゃ飯―!」

今日は何じゃー?と平然と風呂敷を開くカクに、少しばかりの違和感を覚えた。
カクは常日頃からハルアの兄貴分を名乗り、昼休憩にも俺とハルアの間に入って邪魔をしてくるような男だ。
俺には到底及ばないものの、潜入前からハルアを可愛がっているのはよく知っている。

それなのに、今日のハルアに何のコメントも無しに飯を食っているとは。

「…お前何か知っているのかっポー」

「は?弁当の中身なら今見るところじゃが」

「すっとぼけ方がむかつくっポー」

木材に腰かける体を蹴ってみたが、弁当片手にひらりと避けられた上、はんっと鼻で笑われた。
おいコラちょっと待てなんだその人を馬鹿にした態度は。
ハットリをけしかけてやろうかと肩にいる相棒に目を向けると、眼が合った瞬間に顔を逸らされた。
……ハットリ!!!?

「ハットリにもふられてんのかルッチ。喧嘩でもしてんのか?」

「………」

「え、ちょ…本気で落ち込むなよ」

パウリーも飯を食いながら声をかけてきたが、もう反論すらできない。
ふられたのか、ふられたのかこれは。ハットリにまでふられたのか俺は。
昨日までは普段と変わりなく接していたはずだが、もしかしたら何か気に障る事でもあったのかもしれない。
昔から寝食を共にしてきたハットリにまで愛想を尽かされるということは、昨晩の飯がまずかった程度のことではないはず。

まさかとは思うが、眠っている間に獣人化でもして捕食しかけたりしたのだろうか。
シャレにならない想像だが、今も目を合わせてくれない相棒はクルッポー!と誤魔化すように鳴いてみせた。

…それにしてもハルアには何をしたのか。
本当に何か用事があったのなら良いが、今思い返せばあの子も俺から目を逸らしていなかったか?あのダークブラウンの瞳に俺は映っていなかったんじゃないか?

「そりゃあのう、ハルアも毎日毎日あれだけ一方通行に愛情表現されてものう?」

「あー、まあベタベタと破廉恥が通常運行だもんな、お前」

「抱きしめるのは当たり前、頬やら手やらにキスじゃろ、頬ずりじゃろ…」

「あと前から思ってたんだけど、そのヒゲいてえんじゃねえ?」

「……!!」

なぜか飯を中断させて俺への攻撃を始めたカクとパウリー。
待て待て待て待て、バカな、そんなバカな。
たしかに毎日ハルアへの愛情表現を欠いたことはないが、嫌がられていた?ハルアに?

「あの子は嫌なんて言えんから、今までずうううっと我慢してきたのかもしれんのう」

「思春期にはちょっと早いが、あれだけ大人の男にベタベタされちゃあなあ…」

「……!!」

やまない二人の攻撃に、再びハットリを見るがやはり目を合わせてくれない。
腹話術は変わりなく続けてくれている(これをストライキされると真剣にまずい)が、俺からの視線に耐えかねたのか、肩から飛翔してシルクハットの上に移動されてしまった。
…これは、もしやマジか。

もはや二人の攻撃に耳を傾ける余裕すら無くし、パウリーの持っていたパンを奪い取って渾身の力でカクの顔面に叩き付けてやった。
何やら怒号と悲鳴のいりまじった抗議が聞こえたが、全てシャットアウトして昼食を無理やり飲み込む。
味を感じないそれを腹に納めても、胸か腹にぽっかりと穴が開いたような虚脱感が消えることはなかったのだが。


+++++++


「ンマー、今日もお疲れさん」

「……お疲れ様ですっポー」

午後はひたすらに作業に没頭して時間を過ごした。
そのおかげか周りの他の船大工たちからは感嘆の声が漏れているのを聞いた。
だがむさくるしい男たちの褒め言葉で癒されるような自分ではないわけで、傷口を広げらるような錯覚にひたすら耐え抜いた。

「どうしたルッチ、随分ふてくされてるじゃねえか」

「クルッポー、そんなことは」

「よし、今晩は俺もブルーノの所で騒ぐか」

がし!とアイスバーグに肩を掴まれ、なぜか反対の肩はカリファが掴んでいる。
は?と眉を顰める俺を無視し、引きずるようにして歩き出した2人。
なんだ、何がしたいんだこいつらは。しかもカリファまで。


[*prev] [next#]
top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -