その10-1 [ 15/50 ]
「ハルアちゃん、これなんて見てよぉ」
「・・・クザンさん、ですか?」
「当たりぃ〜」
「・・・また随分と懐かしいもんを見ちょるな」
ボルサリーノの右手に持つ写真に写るのは、もう何年も前のクザンの姿。
左手に持たれたサカズキの写真に彼自身は目をさりげなく背けたが、ボルサリーノの
「オー・・・この頃のサカズキのファッションってさぁ、結局何がしたかったのぉ〜?」
の一言で色んなものが爆発した。
と言うかこんな写真撮った覚えも撮られた覚えも無い。
「サカズキさん、静かに写真をマグマで飲み込むのはやめましょう・・・!」
「コワイね〜・・・。また部屋を壊したって怒られるよぉ〜?」
「・・・・」
「サカズキさ、っえぎぃ!」
ボルサリーノの膝に座らされていたハルアを取り上げて、ソファーに下ろして自分もその隣へ。
その際に猫にするように後ろ襟を掴んで持ち上げたので、奇妙な呻き声が上がったがまあ気にしないことにする。(えぎぃ・・・?)
「ちょっとぉ、ハルアちゃんはわっしの膝が定位置でしょぉ〜?」
「知らん。・・・ハルア、いつまで咳き込んどる」
自分の隣のハルアに声をかけるが、体を折りたたむようにして咳き込むばかり。
少しばかり勢いを付けて持ち上げはしたが、そこまで苦しむものでもなかろうに。
ひいひいと喉を抑えていたが、一向にこちらを向かないハルアの小さな頭を掴んでぐりん、と目を合わせた。
やっとこちらを見たハルアの髪に自分の胸に挿していたバラを飾ってやった。
黒に赤が映えて、思い付きの行動にしてはなかなかに満足。
「オー・・・キザなことするねぇ〜」
「良いんですか・・・?せっかくいつも挿していらっしゃるのに」
「構わん。花の一輪や二輪、黙って受け取らんか」
なおも遠慮しようとするハルアの髪を、バラが落ちない程度にかき混ぜてやった。
そうするとボルサリーノも寄って来て、わっしも〜と二人してハルアをもみくちゃにする。
髪はボルサリーノに譲り渡し、ひゃー!と騒ぐ頬をつまんでみた。
・・・柔らかい。(・・・餅)
「むむむ!お二人ともくすぐったいです!」
「・・・子供っちゅーのは、撫でるか褒めるかしたら笑うもんじゃろ」
「う、嬉しいですけどくすぐったいのです!」
「こちょこちょぉ〜」
「ひゃひいいい!!」
なぜか本格的にくすぐり始めたボルサリーノに、なんとなく冷静になってハルアから手を離した。
一歩後ろへ下がると、ソファーでころがる大人と子供。
顔を真っ赤にして笑うハルアと、至極楽しそうにいじり倒すボルサリーノ。
身を捩ってくすぐる手から逃れようとするが、追いかけるようにして手はどこまでも伸ばされる。
・・・今の今まで、わしはあの中におったのか。
ついさっき一歩引いた距離が、とてつもなく大きく感じた。
馴れ合いは昔から好まないが、あの子供に自然と腕が伸びてしまうことも事実。
自分は案外子供好きだったのかと顔をしかめたものだが、それでもハルアの顔を見ると腕が伸びる。
さっきもバラを髪に挿してやるなど、女にもしたことが無いような真似をした。
「ボ、ボルサ・・・!ひ、あはははは!!」
「ハルアちゃん参ったぁ?参ったぁ?」
「ま、参り、あははは!!ひー!」
「わっしの勝ちなら攫ってっちゃうからねぇ〜」
戦桃丸君と相性も良さそうだしさぁ〜と笑う同僚の背中に、あれと一緒になってハルアに構っていた自分の姿を想像して精神的に1歩引いた。
・・・いや、わしはこいつほどはおかしくなってはいなかった。・・・はず。
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