番外・その3 [ 5/50 ]

「ああハルアちゃん、エニエスロビーに行く前に、ちょっとお買いもの行こうや」
「はい、何か必要なものはありますか?」
「たいていは向こうでも揃うし、支給もあるだろうけどね」

でも、このまま別れちゃうのは嫌だしさ。
せっかくあの島から連れ出して、毎日この子のお茶が飲めると思ってたのに。
この子がいてくれるなら、お仕事だってちょっとは楽しくなりそうだったのになあ。

ハルアちゃんを肩車して、本部にあるいくつかの店のうちの一つ、この場所には少々可愛らしすぎるような雑貨店を訪れた。
日用品の他に、レターセットや化粧品、ぬいぐるみなんてものまであるものだから、男よりも女の客の方が多いとかなんとか。
いつもなら寄りつかない店だけど、ここならハルアちゃんにぴったりでしょ。

「姉ちゃん、エプロンっておいてる?」
「はい。指定された支給品のものですか?」
「いやー、この子に似合いそうなの頼むよ」
「あら」

棚を整理していた店員に声をかけ(可愛い姉ちゃんだけど、さすがにナンパは今はやめとこう)、ハルアちゃんの方を見れば、明るい店内をきょろきょろと嬉しそうに眺めていた。
うわ、ぬいぐるみなんて抱いちゃって可愛いなあもう。
もうエニエスロビー連れて行くのやめようかな。マジで。

くすくす笑う店員にいくつかものを見せてもらい、その一つを手に取った。
ちょっとシンプルすぎるかな?

真っ白の生地に、ポケットが二つ。
胸に動物の肉球の型が刺繍され、ワンポイントになっている。
聞けば、ちゃんと子供サイズも揃えていると言う。
あららら、需要なんて無いだろうに良い店じゃないの。

「ハルアちゃん、ちょっとこっち来て(ちょいちょい)」
「はい」

触っていたぬいぐるみ(よし、後で買ってあげちゃおう)を棚に戻し、こちらに駆け寄って来るハルアちゃんに、選んだものをあてがってみた。
うん、サイズもちょうどみたいだし可愛い。

「わ、エプロンですか?」
「そうそう。良いね、これにするわ」
「毎度ありがとうございます」

タグに書かれていた金額を少し割増しで店員に渡し、包装してもらって受け取る。
あららら、袋まで可愛いじゃないの。
女やハルアちゃんが持てば可愛いけど、男にはちょっと無いんじゃない?

「おじさんからプレゼントね」

遠慮されるのは目に見えていたから、何か言われる前にその手に袋を握らせ、俺があげたいの、と釘を刺しておく。
受け取ってもらえなかったら、俺これどうしたら良い?とちょっと意地悪も含めて。
こう言えば、この子は絶対に遠慮なんてできなくなる。

「クザンさん、何から何まで・・・」

ちょっとちょっと、そんな悲しそうな顔しないでよ。
そんな顔が見たかったわけじゃないのに。
ほら、笑って。

「おじさんのこと、忘れたりなんかしたらお仕置きだからね」

小さな頭を撫でまわして、こちらにも釘を刺しておく。
いやあ、忘れられちゃう前に会いに行くけどね。
そうだ、電電虫も持たせてあげよう。
何かあったら連絡できるし、何も無くても連絡してほしいしさ。

ほらほら、こんなにも君のこと想ってるんだから、ね、笑って。

「ありがとうございます、クザンさん」

へにゃりと笑う顔を見て、やっぱりエニエスロビーに行くのはやめようかな、と思ったのは内緒ね。
もう、手放したくなんてないんだけどなあ!
さあて、スパンダムちゃんには何て言って釘を刺そうかな。


指切りなんて必要無いよね?


「あ、ぬいぐるみ買うの忘れてた」
「え」
「どうしよ、戻るかな」
「いえいえ!その、眠そうな顔のくまさんだったんで」
「?」
「ク、クザンさんみたいだなあ、なんて」
「よし戻ろう。大中小の3サイズ買ったげる」
「ええええ」



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