番外・その24 [ 45/50 ]

ちらほらと緑の中に鮮やかな色が咲いて、くしゃみの種類がそろそろ変わる頃。
相変わらず平和で賑やかなW7は、今日と言う日も朝からやっぱり賑やからしい。店先を箒で掃いていたハルアの傍には3人の男。メンバーは言わずもがなである。

「ハルア、今まで黙っておったが…」

「おはようございますカクさ…どうしたんですか!?お顔が真っ青で…!」

「わし…わし、実は女の子だったんじゃ!!!」

「!!!!!」

4月1日。
この日ばかりは、ついにとち狂ったか…と思われるような発言も、今のカクのように通行人にも生温かい目で見逃してもらうことが出来る。ただし、カクの目の前にいるハルアは衝撃の告白に目を見開いて心底ショックを受けていたが。

「怒っておるか…?女のわしは嫌いか…?」

「な、何言ってるんですか!!そんな訳…!ああ、でも本当のことを教えてくださってありがとうございます。ずっと隠していらっしゃったんですね。知らなかったとは言え、今まで失礼なこともたくさんしましたよね…」

「ハルアーっ!」

「カクさーん!」

「なあルッチ、これつっこんで良いと思うか?」

「…クルッポー」

ぎゅぎゅっ!と固い抱擁を交わす2人に、パウリーはため息混じりに、ルッチは殺気混じりに拳を握った。それを察知して顔を上げたカクはしたり顔でニヤリと笑うが、ハルアの方はそれはもう真剣にカクの女性とはとても思えない体を抱きしめていた。

「じゃあカクさんは兄貴分さんじゃなくて姉貴分さんになるんですか?」

「そうなるのう。お姉ちゃんと呼んでも良いんじゃぞ」

「いや、うん。ハルアお前、カクの上半身見たことあんだろうが」

「………っは!!!!!!」

まさに4月バカ。
やっとカクの嘘にもならない冗談に気付いたハルアが、抱きしめていたカクを見上げても、本人はすまんすまんと笑いながらも抱きしめる腕は離さない。しかしそこはルッチやパウリーが許すはずもなく、少しばかり拗ねたらしいハルアはあっという間にカクから引き剥がされた。

「エイプリルフールになんて乗っかりやがって…。ガキか」

「なんじゃパウリー!日々をしっかり楽しまんと老けるぞ」

「そう言うお前は後頭部に円形脱毛症かっポー」

「「「え゛っ」」」

つん、とルッチがつついた後頭部に、カクはばっと手をやり、パウリーとハルアが確認のために彼の短髪をかきわける。…が、いくら探してもそれらしきものは見当たらず、3人でルッチに視線を向ければ何でも無い顔で冗談だとのたまって見せた。

ブルータスお前もか!!とまでは行かずとも、どうやらエイプリルフールをそれなりに楽しむ気はあるらしいルッチに、パウリーが苦い顔で葉巻を噛む。普段から無表情な男が嘘を吐くと、ものすごく厄介なことくらいは彼にも分かる。しかも、そんな手ごわい男が実は常日頃から嘘で周りを欺いているような最強の詐欺師なら尚更。

「嘘はやっぱりダメですよう…。ビックリしたり悲しくなっちゃいます」

「クルッポー、嘘にも色々ある。後腐れの無いような冗談程度なら問題無いっポー」

「そうじゃ。むしろ今日はそれがまかり通るどころか歓迎される日じゃからな!」

「そ、そうなんですか?」

「「もちろん」」

「…………」

いやさすがに歓迎はされてねえよ。
そんなパウリーの思いは、「嘘も奥が深いですねえ…」としっかり騙されているハルアに届くことも無い。それに、どんな些細な行事にも全力で楽しむ質のW7では、嘘と言い切ることもできない。
更に言うなら、パウリーだってそんなW7で生まれ育った男。ぶっちゃけるとちょっと楽しそうだなんて思っていないこともないのである。

「むむむ…では早速、と思っても簡単には思いつきませんね」

「簡単にすらすらと嘘吐くお前とか考えたくないけどな」

「ぼくだってやれば出来ます!きっと!」

「わははは!そんなに張り切ってつくもんでもなかろう!」

「えっとえっと…実はぼく、こう見えてもカクさんと同い年なんですよ」

「それなら好都合だっポー」

「え?」

「アイスバーグさんに無理を言って俺たちの婚約届を受理させようと思っていたんでな。クルッポー!」

「こんやくとどけ……っ!!?」

「クルッポー、嫌か?」

「いやそこは“冗談だ”って言えよ頼むからあああ!!」

「おぬしならやりかねんからゾッとするわ!!」

見ろ!と袖をまくって見せたカクの腕は見事に鳥肌。しかし、まさかの冗談(?)に驚いていたハルアにしれっとした顔で頬にキスするルッチは全く気にする様子は無い。
こいつホントに冗談じゃなくてマジで言ったんじゃなかろうか…と心配になってきた頃、朝から店先で騒ぐ4人の様子を見にブルーノが顔をのぞかせた。

「賑やかなのは良いが、お前らまだ時間は大丈夫なのか?」

「おお、今日は3人揃って昼からでな」

なら良いんだが、と言いながらもルッチからハルアをべりっと引き離して自分の横に立たせる保護者代表ことブルーノ。しかしそんな彼は、なぜか手に小さな荷物を持っている。ハルアも彼がどこかに出かけることは聞いていなかったようで、不思議そうに荷物を見ていた。

「ブルーノさん、おでかけですか?」

「ああ、ちょっとアイスバーグさんのところにな」

「アイスバーグさんに?急なもんでないなら俺が持って行こうか」

「パウリーに持って行かせたら物を売り払われるか手間賃を取られるっポー」

「取るかっ!!昨日のレースでちっとばかし勝ったおかげで余裕があんだよ俺は」

「わははは、パウリーその嘘はムリがあるわい」

「嘘じゃねえよ!!どんだけ俺が勝負弱いと思ってんだてめえは!!」

「えっ!?嘘じゃなくて本当に勝ったんですか…っ!?」

「なっ!お前まで…!!」

「わわっ、冗談ですよ…!あ、いってらっしゃいブルーノさん!」

どんどんと話が逸れて行く間に、ブルーノは笑いながらもガレーラ本社へ歩き出そうとしていた。見上げてくるハルアの頭を撫でると、その拍子に荷物が揺れてカチャリと軽い音を立てた。どうやら中身は空の瓶か何からしい。
そんなものをアイスバーグの元に持って行ってどうするのかとハルアたち4人が訝しげな表情を浮かべると、それを察したブルーノは、ああ、と荷物を持ち上げて見せた。

「アイスバーグさんとは前々から、どっちがハルアの保護者に相応しいかで決着を付けようと話していてな。まあ空き瓶でも武器にはなるかな、と。軽い上に鈍器にも刃物にもなる」

「「「「……ん?」」」」

「まあ怪我はするだろうがちゃんと勝って帰って来るから、留守番よろしく頼んだぞ」

「はい!じゃなくて、ブルーノさん、え?」

「今晩はお祝いに豪勢にしよう。じゃあ行ってくる」

「え?エイプリルフールです、よね?…え!?」

4人に背を向けて歩き出したブルーノはハルアの問いには答えず、ただ肩をゴキリと鳴らして角を曲がって行った。彼を見送った後もしばらくその場で固まっていたが、全く笑っていなかったブルーノの目を思い出して、仲良く4人揃って冷や汗を流した。

ブルーノが持って行った空き瓶は実は美しいラベルで有名なボトルで、そのコレクターがアイスバーグの知り合いにいるのだと彼らが知ったのは、ブルーノの後を追って駆けこんだ社長室だったと言う。もちろん、事情を知ったアイスバーグの爆笑付きで。


嘘発見器も嘘を言う4月午前


「本当に…本当に焦ったんですからね…!?」
「いや、すまんすまん」
「はっはっはっは!ブルーノ、もういっそ本当に決着つけちまうか」
「……やりますか?(すっ)」
「逃げてー!!アイスバーグ逃げてー!!!」


あとがき
たしか去年はやりそびれていたエイプリルフール!……やってない…よね…?←
管理人:銘


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