番外・その1 [ 3/50 ]

「ルッチ、頼まれていた物よ。これで良かったかしら?」

「・・・・ああ」

「え、なんじゃルッチきしょくわる!!」

がっつーん

ルッチの情け容赦ない拳骨が頭に直撃し、床で苦しむカク。
六式を使わないだけありがたく思え。と吐き捨てて、任務帰りのカリファから受け取った物に目をやる。

大きな薄い箱は、可愛らしいレースを模した包み紙で包装され、何本ものリボンでくくられ、小さな造花まで添えられている。
ものすごく可愛らしい。
カリファが持っているのは問題ないが、ルッチの手に渡った途端に違和感の津波である。

そりゃそうだ。だってあのロブ・ルッチだもの。
カクは心の声をぐっと飲み込んで、箱を開けるルッチの手元を覗き込む。

「なんじゃ!プッチの店の菓子じゃったか」

可愛らしい箱の中には、これまた可愛らしい洋菓子がアソートに個包装で詰められ、プッチの名店のロゴの入ったカードが入っていた。
任務のために海列車に乗ったカリファに、帰還途中で買って来てくれと頼んだ物だったが、カクの記憶ではルッチはたいして甘いものを好いてはいなかったはずだった。

・ルッチが甘いものを買った。
・しかもカリファに頼んでまで名店の可愛らしい物をチョイス。
・あれ?でもこいつ甘い物そんなに好きじゃないじゃん。
・じゃあ自分が食べる用じゃない。

イコール。

「・・・ハルアか?」
「他に何の理由がある(ぎろり)」

いやそうだけど。
睨まんでもいいじゃないか、睨まんでも。

がっさがっさどさどさー

何を思ったのか、せっかくの可愛らしい箱から菓子を出し、何やら大きな底の深い缶に詰めていく。
カクが缶のフタを盗み見ると、“ハルア用”の張り紙。
今入れた菓子の他にも、既に種類豊富な菓子が詰められており、缶はほとんどいっぱいになってしまった。

かぽん、とフタを閉めると、満足そうにうなずくルッチ。

なんとなく何がしたいのか分かったカリファとカクだったが、口を開く前にルッチの部屋のドアがノックされた。

「失礼します、お掃除に・・・。
わ、カク様にカリファ様こんにちは!」

小さな顔をのぞかせて、道具片手に入って来たのは予想通りのハルアで。

「すいません、また後に・・・」
「いや、出るところだったから構わない」

遠慮して出て行こうとするハルアの小さな手をとり、缶のフタを開けて中身をいくつか手に取る。

「駄賃だ。取っておいてくれ」
「え、あ、でもルッチ様、そんな勿体無い・・・」

どうせもらい物だ、としぶるハルアの頭を撫で、さっさと出て行ってしまうルッチ。
その背中を追いながら、カクとカリファはクスリと笑う。

変なところで素直じゃない奴。

きっとあの大きな缶の中身を毎日少しずつ渡すのだろう。
人に頼んでまで買ったくせに、もらい物だとか俺は食わないなんてうそぶいて。
平気で抱き上げたり頬ずりしたりするくせに、この男は。

「・・・バカな猫さんじゃのう」
「・・・本当に不器用な猫さんね」

「餌付けは時間と根気が必要だそうだ」

ああしまった。
この猫さんは頭がおかしかったのを忘れていた。



距離を縮めたいだけなんだ



「ルッチ様にいただいたお菓子ですか?」
「そうじゃ、美味かったか?」
「実はまだ一つも食べてないんですよ」
「え(もう一週間は経つから相当な量になっとるだろうに!)」
「!!!!(がーん)」
「もらった物は缶につめてるんです」
「・・・なんじゃと?」
「いっぱいになったらルッチ様とそのお菓子でお茶会を開くんです!」
「「!!!!!(きゅん!)」」



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