番外・その6 [ 9/50 ]

「そっちの水水玉ねぎと、あとこっちのも」

「はいはい、これはハルアちゃんにあげてちょうだいね」

ブルに乗って買い出しに出れば、食材の袋の他にもう一つ小さな袋が荷物に加わる。
顔なじみになっているここらの店では、俺は“酒場の店主”と言うより“ハルアの伯父”として通っているようだ。

まだハルアがいない頃は『今日も飲みに行かせてもらうよ!』とか『これ、船大工さんらのつまみにしてやんな』と声をかけられたり何かをもらったりしたが、今ではすっかり『ハルアちゃん元気?』『ハルアちゃんにあげてよ』に取って変わってしまった。
やはりハルアはエニエスロビーでもこのウォーターセブンでもポジションは変わらない。
いつだって好かれ、構われて可愛がられて。
喜ばしいことだが、正直な話少し胸が痛みもする。

俺たちはいつかこの島を出て行く身。
任務遂行にあと何年かかるかも分からないが、ここでずっと今のままでいられるわけも無い。
最悪の場合、アイスバーグや船大工たちを殺すこともあり得る。
もしそうなった時、あの子に何と話すべきか。
・・・いや、まずあの子にそんなことを聞かせるべきか否か。

そしてもう一つ。
・・・あの子が、ハルアが。
誰かに好かれることは喜ばしい。
実に喜ばしい。
ハルアに会おうと店に来るような奴もいるし、あの子には言わないが情報を聞き出すのもあの子の方が上手くいくこともある。

だが、保護者として、伯父として。
気にくわないな、と思うことが稀にある。

あの子に絡む酔っ払いを見た時、あの子にやたら絡むルッチを見た時。
何かを貰って帰って来た時、ルッチに何か押し付けられて帰って来た時。
頭を撫でられて笑っているのを見た時、ルッチにキスされて顔を赤くするのを見た時。

独占したいわけでも無し、ましてや支配欲なんてものでもない。
ただ俺もそうしたい、と。
隣の芝生は青い。または他の奴が食べてるものは美味そうに見える。
そんな幼稚な考えで、あの子に伸ばされる手が自分のものであったらと思う。
(ルッチに限っては真剣にあの手を叩き落としたいとも思う)

もちろん普段から接しているし、何より同じ場所に住んでいる。
ルッチはあいつの家に移住させる計画なんて考えていたようだが、しっかり先手は打っておいた。
(ハルアが来てすぐの頃に『ここは俺一人には広すぎたからお前が来てくれて嬉しい』と伝えただけ。それでも十二分に効果があることはルッチのさりげない誘いに断ったことから立証済みだ)

朝はハルアを起こして、一緒に弁当や昼食を作り、開店の時間になれば二人で店を回す。
いくらでもあの子に話しかけることができるし、他の奴らが見れないような場面もいくらでも見た。

それでも、あの子が構われているのを見ると、微笑ましいと思うと同時にあの小さな体を取り上げたくもなる。
お前らは知らないだろう、この子は朝だけは猛烈に弱いんだぞ。
時々寝ぼけてシャツが裏表だったり、階段から落ちそうになったこともある。
何でも好き嫌いなく食べるが、実は漬物やつまみのようなものも大好きだったりするんだ。
動物はたいてい何でも好きで、特に柔らかい触り心地の良いものが大好き。

どうだ、お前ら知らないだろう。

「ブルーノさん、お帰りなさい」

「ただいま」

さっき貰ったハルアへの袋(おそらく菓子か何かだろう)を手渡せば、眼を輝かせて笑ってくれる。
俺からのものではないが、やはりこう喜ばれるとこっちも嬉しくなってしまう。

柔らかい髪を撫でて、買ってきた食材を一緒に貯蔵庫へ保管した。
保存のきくものは奥へ、すぐ使うようなものは手前へと選り分けて、同時に今日と明日に何を作るかを考えて行く。

「ハルアは何か食べたいものはあるか?」

「む、むむむ!」

「何でもは困るからな」

「むむむむ・・・!!」

困ったように頭を抱えてしまうハルアに苦笑して、なら二人で考えて一緒に作ろうと声をかければすぐに明るい笑顔に戻ってくれた。
普段からあまり自己主張はしない子だから、答えが簡単に帰って来るとは思っていなかったが、やはり甘えてほしいし願いを叶えてやりたいと思う。
例え言ったとしてもきっと些細なことなのだろう。
ならばその些細な願いを精いっぱいこの子が笑ってくれるように工夫しようじゃないか。

この可愛い甥っ子に、俺が何をしてやれるか。

「じゃあ、お魚なんてどうでしょう」

「・・・ルッチが好物だから、じゃないな?」

「・・・ではこの前のクリームパスタなんて」

「アイスバーグが美味いと言っていたからじゃないな?」

「・・・鳥のスープ」

「あれはカクの奴か」

「野菜いっぱいのリゾット」

「カリファ」

「牛肉の甘辛揚げ」

「パウリー」

「っむむむむ・・・!!」

出てくるメニューはどれもこれも他の誰かのお気に入りばかり。
優しい子だが、こんなことぐらいはワガママを言ってくれないと、正直寂しい。

「・・・お前は何が食べたいんだ?
作ってやるから誰かに遠慮せずにお前の食べたいものを考えろ」

俺はお前の好きなものを作りたいぞ。
そう言ってまた困ったように抱えた頭を軽く叩いてやった。
まだむむむ!と唸ってはいるが、これでもう誰かのお気に入りなんて提案しないだろう。
さあさあ、俺の可愛い甥っ子は何を望んでくれるか。

「あの、あの」

「遠慮したらもう朝起こしてやらないことにしよう」

「すいません毎朝本当にすいません頑張って起きられるようになります・・・!」

「分かった分かった。で?」

「オ、オムライスが食べたいです」

「そうか、なら卵と・・・」

「あの、前に作ってくれた卵をオムレツにするもので、野菜がお星さまになっているのが・・・・良い、です」

どんどん小さくなっていく声を聞けば、ああ、そう言えば作ったな。
ハルアが来た初日にアイスバーグとカリファに連れられて食べたオムライスに衝撃を受けたと言うので、再現してみたら俺のものの方が美味いと感激されたんだった。
ケチャップライスは甘めに仕上げて、野菜は月と星の形にカット。
卵はオムレツにして上に乗せ、食べる直前に割ってとろとろに.
その時は旗まで立てられていたと聞いたから、それなら俺だって立ててやろうじゃないか。

「あの、良いですか・・・?」

「ああ、前のより美味くしよう」

「ありがとうございますブルーノさん!」

どうだ、お前らこんな可愛いワガママを言われたことがあるか。
この優しい子に言わせたことがあるか。
まだまだ俺にしか知らないことがたくさんある。
お前らがそれを知るのはいつになることやら!

もちろん“お前ら”はハルアに構う奴ら。
特にルッチ、この子を甘やかすお前にこんなことが言わせられるか。
どうだこれが伯父の力だ。
悔しかったらハルアに大好きとでも言われてみろ。
・・・言われたら殴るが。(もちろんその他全員で)

「よし、まずは旗だ」

「え、そこからですか」


卵の黄色にケチャップの赤いハートマーク


「今日のブルーノは妙にニヤニヤしとらんか(ヒソヒソ)」
「“酒場の店主”の時はいつもそうだろ(ヒソヒソ)」
「ハルア、明日は何が良い?」
「明日はブルーノさんが食べたいものにしましょうよ」
「ハルアの食べたいものが作りたい」
「むむむ・・・!」
「「(よく分からないけどなんとなくイラッ)」」



あとがき

拍手にて『ブルーノさんのほのぼのが読みたい』とのお言葉をいただいたので、さっそく書いてみました。
伯父さんはちょっと妬いてみたり。でも保護者なので基本的に見守る側のようです。
でもルッチさんには厳しいというね。
甥っ子に甘い伯父さんは言い寄ってくる奴は排除してしまいたいとか思ってることでしょう。(なにこれ物騒!)
リクありがとうございましたー!
管理人:銘



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