ただ君だけを [ 13/94 ]

「このまま歩けばチアキと出会う確立、90%」

「・・・へえ」

鬱陶しい授業が4つ終わり、やっと昼休みだと思ったら面倒な奴に絡まれた。
ただ食堂に行きたかっただけなのに、いつの間にやら隣には“魔術師”ことバジル・ホーキンスが俺と全く同じペースで歩いていた。
行き先が同じだけだろうと無視していたのに、いきなりわけの分からないことを言い出しやがって。
それが独り言ならどうでも良いのだが、あきらかに俺の方を見て言うこの男。

「ユースタス、だからお前はむこうを通って行け」

「おし、意味分からねえから殴って良いか」

「言ったろう、このまま行けば高確率でチアキと会う」

「まずチアキって誰だよ」

「・・・チアキはチアキだ」

とりあえず殴っておこう。
ホーキンスの肩めがけて拳を振ったが、ひらりと避けられて長い金髪だけが拳をくすぐっていった。
今は前だけを向き、相変わらず俺と同じペースで歩く。
今歩いているこの道が食堂への最短ルートだと言うのに、俺にわざわざ回り道をしろと。
その理由がチアキと会うから?
まずその女?を俺は知らない。そもそもそんなことを指図されるほどお前とも親しくないだろうが。

「そのチアキと会ったらどうだってんだよ」

「嫌だ」

「は?」

「会うな、見るな」

俺の問いかけにぴたりと足を止めたと思ったら、体ごとこちらに向けて淡々と吐き出される言葉。
じっとこちらを見てくる目はいつ見ても何を考えているのか分からない。
どうせ藁人形だとか呪いだとかそういう気色の悪いことを考えているのだろうと思っていたが、まさかこの男。

「なんだ、そんな好い女か」

「早くむこうへ行け、おそらくじきに」

チアキが、と言うと同時に、ぐるん!と回る首。
廊下の向こうを凝視していることに気付き、なんだなんだと俺もそちらを向く。

「チアキ」

「こ、こんにちはバジル先輩」

今まで歩いていたものより倍以上も速いスピードで歩いて行ったと思ったら、1年らしき女子の肩を捕まえてぴたりと止まった。
あれが噂のチアキか、と眺めたが、どこにでもいそうな並レベルの容姿にガッカリした。
なんだ、あの“魔術師”が独占宣言するくらいだから、どんな女かと思ったら。

「ホーキンスで良いと言った」

「いえ、あの先輩ですし、それにそこまで親しいわけでも」

「遠慮するな、すぐに慣れる」

「すいません、本当すいません」

「なぜ謝る」

肩をしっかりと掴まれたまま、ホーキンスに淡々と話しかけられているチアキはどんどん顔色が悪くなっている。
よく見れば体は小刻みに震えて、足に至ってはもうガタガタだ。
決してホーキンスと目を合わせようとせず、足元あたりをひたすら見つめている。

怯えられてんじゃねえのか、あれ。

「食堂に行くんだろう。俺も行く」

「いいい、いえいえ!ちょっと職員室に」

「行こう。ご馳走する」

「ふひいいい!!」

一段と青くなってしまったチアキの肩を掴んだままずるずると歩き出すホーキンスと、奇妙な鳴き声を上げるチアキ。
周りを通る奴らは、うわあ・・・とばかりに見ないフリ。
俺にどうしろと。
放っていって良いものか。

「ひい、バジル先輩すいません勘弁してください・・・!」

「今日の降水確率0%。昼食の後は中庭でチアキの膝で昼寝」

「すいませんすいませんごめんなさい」

肩を掴んでいた手はチアキの手に移り、強制的に恋人つなぎにされてチアキがまた悲鳴を上げる。
謝り倒すチアキがあまりにも哀れで、柄でも無いが同情してしまった。

「お前ら、いったいどういう関係なんだよ」

「な、何の関係も無い3年の先輩と1年の後輩です!」

「三代前の前世から契った運命の仲だ」

「ひいいいい!?」

一応聞いてみたが、その差は何だ。心の距離じゃないのか。
完全拒否されているにも関わらず、なんだそのどや顔は。(相変わらず無表情だが、なんとなくそう見える)
運命の相手宣言にチアキがまた青くなり、もう泣きそうな顔で繋がれた手を1度振ってみたが、しっかりと繋がれた手は離れようとしない。

たすけて・・・!

そう言わんばかりにこちらを見てくるチアキは足がもうガタガタどころではなくなっていた。
なんだか小動物に見上げられているような庇護欲と、何か自分が悪いことをしたような罪悪感の錯覚さえ覚える。
ホーキンスはチアキと名前を呼びながら腕を引くが、またすいませんごめんなさいと謝りながら小さく抵抗する。

「・・・嫌がってんぞ」

「・・・嫌がっているのか」

「ひいいいすいませんごめんなさい呪わないでください!」

「チアキを呪ったりしない。だがそうだな、髪を3本ほど貰えるか」

「髪!?な、何にお使いに」

「二人の仲をより強固なものにする」

「ふひいいいい!!」

何気に誰かを呪えることは否定しないのか。呪えてしまうのか。
1年の頃に当時の担任を呪ったという噂はまさか真実なのか。
もう一度嫌がってんだろと声をかけると、懐から何か出したと思ったらそれを投げ付けられた。

「つめって!何だ水か!?」

「聖水だ。去れユースタス」

「今の状況じゃてめえが悪魔だろうが・・・!」

「チアキ、明日は満月だな」

「ひ!?そうなんですか・・・?」

「満月の晩に結ばれれば不変の誓いになる」

だから明日家に迎えに行く。
そう無表情で告げたホーキンスに、チアキがふらりと傾いた。


神に天に星に誓う。ただ君だけを欲すると。


「とりあえず離してやれ(さっきの聖水ばしゃっ)」
「・・・っぐ・・・(よろ)」
「やっぱてめえが悪魔じゃねえか!」
「明日はチアキがデレる確率80%・・・」
「ぜってえ当たらねえよ!」
「藁人形怖い藁人形怖い・・・」



あとがき

今回の見どころですか?可哀想な苦労人キッド先輩ですかね!←
無表情で惚れ込んでいるホーさん、可愛いと思います。(真剣)
靴箱に藁人形とかつめちゃうんですよきっと。
机に魔法陣とかいっぱい書いてくれますよきっと。
・・・可愛くないですか?(^p^)
管理人:銘




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