その手はいつも頭を撫でてくれた。髪をすくい、その手が離れていくと寂しくなった。
外に居ても家に居ても、いつでもそうしてくれるからずっと一緒にいた。
それだけじゃなくて、抱きしめてくれた。キスしてくれた。ひとつひとつ、本気じゃないかもしれないと疑っていてもそんなことはないと、本当の愛情だと無意識のうちに自分に無理に思い込ませた。決して表面上の付き合いじゃないんだって。僕は、そう思いたかった。
結婚なんてできないけれど、ずっと一緒にいることだって想像した。いつまでも、貴方の腕に抱かれていたい。これからもこの関係は続いていくと思っていたんだけど。

「もう、佐久間さんとはさよならです」

反応なんて見たくない、何も聞きたくない。後悔なんてあるものか、と言ってやりたいところだが、残念な事に後悔の念しか残っていない。少しは吹っ切れると思ってた、でも実際はどうしてだろう、悲しくて仕方がない。こんな決断、したくてした訳じゃない。
もう僕が貴方の髪に触れるなんて事はあってはならないし、触れられる事を望んだっていけない。

「どうして」
「それは佐久間さんが一番わかっているでしょう」

非は全て貴方にある。僕は何も悪くない。ただ一つ間違いを犯していたのなら、それはきっと過信。もう前は見えない。僕の中で貴方がどれだけ大きい存在なのか僕も貴方も知らなかった。悪いのは貴方だ。けど、馬鹿なのは僕だ。
疑ったって事は信じられなかったって事。貴方が、他の人ともそんな関係を持っていたなんて。こんな不安定な関係だから、浮気だとか文句を言うのは間違ってる。それでも僕だけだと信じ込んでいて、本当に情けないというか、自分自身を蔑み貶す他ない。

「まあ、ニクスが関係を切りたいならそれでいい。ニクス、会おうとか言いすぎ。正直めんどくさかったし」

それも、それも僕を想っての嘘だと思ってしまう自分を殴りたい。そんな事、あっていいはずがない。貴方の事も殴りたい。そんな簡単に言ってのける所とか、僕の気持ちを弄んだ所とか、貴方なんか大嫌い。こんな夢、早く覚めろ。

「今まで、ありがとうございました」

なんて嫌味。きっと貴方には届かない。貴方には伝えられない言葉を全て押し込めて、何を言ったって悪あがきにしか聞こえないでしょう?それなのに

「こちらこそありがとう」

なんて。どこまで僕を苦しめるつもりなのか。
佐久間さん。貴方の事は一生許しません。

20140520


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