騒がしくて、耳障りな音と共に帰ってきてどういうつもりなのか。
もしかしたら、いつも以上に、どれ以上にも静かな帰還だったのかもしれない。覚えていない、知らない。波の音だけは、確かに聞こえていた。

外に出て様子を伺ってみれば、なんで、喋らない。もう、半年くらい会ってなかったじゃないか、つれないなぁ。
前に会った時よりも軽装備だな。そんなんで大丈夫なのか?今日はギガは……あぁ、そこにいるんだ。
まぁでも、前よりだいぶ変わったな。もう、昔のアルスじゃないんだな。

マリベル、なんて顔してるんだよ。美人が台無しだって。え、そんな、冷たい事言わないでよ。あんたはわかってない?嫌だなあ、まったく。マリベルは変わってないね。安心したよ。アルスは、変わっちゃったからね。

その日は皆、何をするでもなく散っていった。アルスは自宅に戻ったらしい。沢山話したいことはあるはずだったのに、アルスの家を訪れて、話すことはしなかった。その代わりに、昔一度だけアルスに連れていってもらった七色の入り江に赴いて、瓶を浸して七色のしずくを採取した。それから、帰宅したのは日が暮れてからのこと。

次の日アルスは家から出てこなかった。当然と言えばそうなのだが、気になって仕方がなかった。
自分は城下町に向かって白の胡蝶蘭を購入した。いくらしたのか、町の様子さえも覚えていない。とにかくそれを昨日の、七色のしずくにさしてみた。これが花を育てるのか、あるいは枯らすのか、そもそもこの花はこう飾るものなのか。全て知らない。

次の日も、アルスは出てこなかった。代わりに、たくさんの人がアルスの家を訪れた。それに便乗して自分も……なんてことはなくその日は、気がついたら日が暮れていた。

次の日、アルスは箱に入って出てきた。そんな事、誰がしろって言ったんだよ。船の方に運ばれていく。アルスを乗せた船に、自分も乗せてもらえた。

どんどん沖に進む船。これから、船に乗った皆でアルスを見送るのだと言う。アルスを、どこにやるつもりなのか。知ってる、知ってるけど、知らない。
こんな会話が聞こえる。
「辛いだろう、無理はするなボルカノ殿。送り出すのは私が……」
「いや、辛いからこそです。息子が歩んだ道の最期を、肯定してやりたい。」

船が停まった。皆、静まる。何も言わない。そんな中、付き添いの神父さんが発する。

「アルスよ、安らかに」

祈りを捧げる。カタい言葉なんて使わずに、こういう事はするものなのだろうか。経験したことがないから。とりあえず周りに合わせるも、ああも簡単に現実を突きつけてくる言葉なんて。許さない、認めない。

そっと、箱、棺を押し出す。やめてくれ、まだ、まだアルスは話せるかもしれない、無い。そんなことあるはずない。わかってる、つもりなんだけど。
誰も制止しなかったから、棺は海に沈んでいった。深い深い、もう会えないところに行ってしまった。

「ニクス」

なんで、こういう時に神様はアルスの声を使って話すのかな。なんでかな。まだどこかにいるのかな。それ以上の言葉は聞こえなかったけど。

家に帰ってきても、船の揺れる感覚が抜けなかった。普段、乗る機会が少ないから仕方ないのかもしれない。

壁際のチェストの上に飾った、一昨日生けた胡蝶蘭が目に入った。それがまるでアルスのようで、視界が海に沈んだ。


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