今度こそやばいかもしれない、というときに、いつもタイミングをはかったように現れるやつがいる。そいつは無言で俺の周りを片付けると、最後に俺に向かってにやりと笑って、颯爽と去っていく。嫌味ったらありゃしない。成分が滴る額を手の甲で拭って悪態をついた。砂漠の真ん中で俺は一人。周りは阿呆なウトゥックだらけ。なんでこの俺様がウトゥックごとき相手に手こずっている? そう自分を叱咤して、砂漠に足を踏ん張った。左手で爆破の魔法、右手で死のコンパスを放つ。考えなしに向かってきた奴らはおだぶつだ。これで半分くらい減ったと思ったのに、消えたような気配は全くない。正直なところ、俺の力も底を尽きかけている。だが、そんなことは言ってはいられない。俺は力を振り絞って空へ飛んだ。
 いくら戦っても敵が減らない。一人のときに限って、こういうことになる。知っている限りの言語を駆使して悪態をついてみるが、それで現状が変わるわけでもない。盛大にため息をついて、背後から迫る敵に肘鉄を食らわせる。そのとき、俺は空の上でこけた。足を踏み外したわけでもなければ、ドジを踏んだわけでもない。足を掴まれたのだ。ウトゥックのくせに、と思っていると、そのまま地上に引きずりおろされる。砂漠に叩きつけられる、と目を瞑ったのと同時に、何かに持ち上げられるような感じがして、俺は目を開けた。

「フェイキアールっ……」

 俺を持ち上げたやつの名前を呼ぶと、やつはこちらを見もせずに、俺を抱え直す。いわゆる、お姫様だっこをされて、俺はやつの腕の中でもがいた。

「下ろせ、馬鹿」
「助けに来てもらって、その態度はないだろう」

 やっと口を開いたフェイキアールは、渋々といった表情で俺を空の上に下ろす。それから、二人で背中合わせに立った。

「助けなんか要らなかったんだよ。俺はこれからやるところだったってのに」
「時間がかかりすぎだ」

 敵がうんともすんとも言わないんだよ! と叫んでやると、フェイキアールは、当然だ、と俺を鼻で笑う。

「まったく、お前はまんまと敵の思う壺にはまったというわけか」
「どういうことだよ」

 俺が首を傾げると、フェイキアールは四方を指さした。

「よく見てみろ。あそこに光っているものが見えるだろう。母体はあれだ。お前が手こずっていたのは、蜃気楼だな」
「なんだと?」
「飛んでいるときにわかった。まあいい。お前の王子様が助けに来てやったんだ。せいぜい足を引っ張らないでくれよ? お姫様」

 フェイキアールはそれだけを棒読みで俺に言うと、しかめ面をした俺だけを残して、北へ飛んだ。今日のフェイキアールは口数が多すぎる。

「何が王子様だ」

 あんな優雅じゃない王子が居てたまるか。俺はにやっと笑ってから、南へ飛んだ。守られるだけのお姫様は、必要ないだろう?



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