最近、情報大臣サマが、俺に何の関心も示さないと思ったら、どうやらやつにも女ができたらしい。やつの仕事場に行くと、たいていその女がいる。でも、できた、というのは大げさな誇張で、正しくは仕事であるということはわかっている。それにしても、小僧はにこにことその女に甘ったるい表情を見せるし、女もそれににこにこと返す。小僧のそんな顔を久しぶりに見て、反吐が出そうだ。気持ちが悪い。まあ、俺もこれでようやく用済みだってわけだ。せいせいする。でもなんで俺はこんなにイライラとしているんだ。眉間にしわを寄せながら小僧の仕事場に入る。ごんごんとわざと踵を大きくならせば、二人がこちらを見る。

「あ。それでは、私はこれで失礼しますね」

 女が言った。

「いや、まだ話は済んでいないだろう? まだ大丈夫だ」

 にこりと笑った小僧は、俺をちらっと見る。俺だと気付いて、女を引き留めようとしているのだから、たちが悪い。俺はぷいっと顔をそらした。この小僧は、いつからこんないっちょ前に、俺を下手に見るようになったんだか。女はもう一度俺を見てから、ですが、と蚊の鳴くような声を出した。

「今日話さなくてはならないことは済みましたし、まだ仕事も残っていますので」
「それは残念だ。これから、アフタヌーンティにでもしようと思ったのだけれど」

 小僧はそう言って、大げさに肩をすくめて見せる。女も残念そうに、すみません、と言って小僧を見上げた。

「それじゃあ、また明日。三時でよかったかな?」
「はい、よろしくお願いします」

 失礼します、と言った女は、出ていく前に俺にも一礼してから出ていった。扉が完全に閉まったのを確認してから、俺は小僧のいる机に寄った。

「ずいぶん親しくなったようだな」

 小僧は何も答えずに、机の上の書類を見る。小僧の態度にむっとした俺は、机に身を乗り出した。

「ああいうのが好みだったとはな」

 俺の言葉に小僧は、好みではないな、と笑う。

「仕事だから、仕方なく一緒にいるだけだ」
「どうだかな。あんなに楽しそうなお前を見たのは、久しぶりだけどな」

 ふいっと視線を小僧から反らした。一定のリズムを刻んでいる足が恨めしい。なんで俺がこんなにイライラとしなくちゃならないんだ。俺は胸の前で腕を組みなおす。すると、俺の様子をじっと見ていた、小僧がくすりと笑った。

「……何が可笑しい」
「いや、だって、お前がそんなに妬いてくれるとは思っていなかったから」

 妬いてる? この俺が? 人間嫌いで有名なこの俺が、こんななまっちろい小僧に妬いてるだと?

「わざわざ、そんな美女に化けてまで、僕と彼女の邪魔をしたかったんだろう?」

 ナサニエルの言葉に、俺は口を噤んだ。赤いドレスを着た豊満な胸の前で組んだ腕を解いて、顔にかかった、長い金髪を払う。だが、次の瞬間には、俺はグレーのシックなスーツを着た青年の姿に変わった。

「なんで、俺がお前に妬かなきゃならない」

 俺が小僧を睨みつけると、小僧は涼しげに笑う。それにむっとした俺は、小僧の机に乗り出した。その時に、机越しに小僧にネクタイを掴まれた。体勢を崩して、俺の鼻先が小僧の鼻先に触れる。

「それだけ、お前は僕が好きだってことだ」

 ナサニエルはそう囁くと俺の唇を塞いだ。にやにやと楽しそうに目を細める小僧にイラっとした俺は、ナサニエルの舌を思い切り噛んでやる。

「自惚れんなよ、ナサニエル」

 にたりと笑って、片眉を上げたナサニエルのシャツの襟を掴んで、もう一度引き寄せなおした。重なった唇の隙間から、ナサニエルの熱い吐息が漏れる。

「俺に妬かせたくなるほど、お前は俺が好きだってことだ」

 唇を離したときに俺がそう言い放つと、ナサニエルはまた笑って、違うな、と呟いた。

「僕はお前を、愛している」

 嬉しそうに微笑むナサニエルは、俺の頬に口付ける。俺だって、という言葉は言ってやらないことに決めた。




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