自分の背後は道具を使わないと、自分一人では見ることが出来ない。今まで、何も持っていなくて、一人だったレインは、背中を見ることが出来なかった。一人だった、というよりは、誰も近付けなかった、と言った方が正しいのか。近付けることがあったとしても、それはある、一定の距離まで。そこから先は、一切踏み込ませなかった。今でも、そうなのかもしれないが、昔よりもぐっと距離は近付いた。

「ギュンター」
「何でしょう、レイン様」

 首をほんの少し傾けたギュンターを、レインは手招きした。それにすぐに反応したギュンターは、レインの側に寄る。レインは、側に来たギュンターの頭を撫でて微笑んだ。

「俺の死角はお前に任せたからな」

 笑い方を忘れたときも、心から笑えなくなったこともあった。だが、今はそれが出来る。背中を誰かに預けて、自分は前だけを見ていられる。

「もうしばらく、俺の側に居てくれ」
「何を仰るのですか。私はずっとレイン様の側に居ります」

 ギュンターは表情を変えずに、その場に跪いた。そうだ、ギュンターはそういう奴だった。自分が望むよりも、ずっと自分を信頼してくれている。レインは満足そうに微笑んだ。

「そうだよな。ありがとう、ギュンター」

 背中は見える。見えないところはない。一人で出来ないことは、誰かを頼ればいい。自分で出来ることは、自分ですればいい。自分にしか出来ないことに、いや、自分自身にもっと自身を持たなくちゃならない。レインは窓の外に広がる、果てない空を見つめた。





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