小説 のコピー | ナノ
私と彼との関係を、友達は「変だよ」と言う。
高校生にもなって付き合ってもいない男女が手をつないで歩いたりすることとか、同じベッドで寝たりすることとか。たしかに不思議だとは思うけど、私たちにとっては当たり前で。今更変だなんて言われてもちょっと感覚が麻痺してしまっているから、やめようとは思わないし、むしろやめてしまったらギクシャクしてしまうことは容易に想像できる。
学校が違うから毎日一緒にいるわけではないし、むしろ一週間のうち会わないことの方が多いと思う。ただ、何時の間にか隣にいたり、何時の間にか一緒に寝ていたり。そんなことばかりだった。
「え、愛美彼氏できたの?」
「そー。クリスマス前にできるとかずるいよねぇ」
「へへ、羨ましいでしょ!」
「むかつくわあ。ねぇ、名前?」
いつも通りの昼休み。仲の良い友人とお弁当を食べていると、嬉しいお知らせ。友人の愛美に彼氏ができたのだと言う。私は昔から人ののろけだとか恋愛話を聞くのが大好きで。聞きたがる割には自分にそういった話題がないと友人に文句を言われることも多々あるのだが、それでもやっぱり友人の幸せは嬉しいし、悲しんでいるなら一緒に悩んであげたっていいと思うのだ。そんな性格をしているからか、姉御肌、なんて呼ばれ方をして彼に似合い過ぎだろうと随分と笑われたことを思い出した。
そうか、おかしいのか。彼の顔を思い浮かべて、またぼんやりとそんなことを思う。じゃあ、私と彼の関係は何なんだろう?私たちが普通じゃなかったら、普通の幼馴染ってどんなものなんだろう?もやもや、と疑問が渦を巻く。
「名前ー?どうしたの?ぼんやりして」
「あー、愛美が羨ましくっていじけてんだ?」
「名前彼氏欲しいの?」
「え、別にいたからどうなるかとか全然考えたことないんだけど…」
私がそう言うと、ふたりは目を丸くして驚いていた。だって、具体的にどんなことしたらいいのかわからない。みんなが言う「幸せ」が全然想像できなくて、私は随分昔から謎だった。
「ねえ、愛美。彼氏といると、どんな感じ?」
そう聞くと、愛美は耳まで真っ赤にして照れる。手で口を覆って必死に抑えようとしている姿は何とも可愛らしい。
「ドキドキするよ?おかしいくらいドキドキして、それがバレちゃわないように隠すから、余計緊張する」
すっごく、かっこ悪くなっちゃうんだよ。そう言いながらへらりと笑う彼女からは、幸せなんだよって気持ちが溢れ出しているように見えた。
ああ、そういえば。彼もよくこんな笑い方をする。彼女の笑顔を見てふと頭をよぎったのは、幼馴染みの彼の笑った顔だった。
「鉄平と、おんなじだ」
「へっ?」
「あ、いや、愛美の笑い方がね。幼馴染みと似てたから」
あったかい顔して、ふわーって笑うんだよね。そう言うと、由紀が吹き出すようにして笑う。驚いて彼女をみると、由紀は笑いながらこう言う。
「それさあ、幼馴染みくん、すっごい幸せなんじゃない?名前と一緒にいることがさ」
由紀の言葉に思わず固まってしまった。愛美と同じ、好きな人と一緒にいるから幸せってことなの?そんな馬鹿な。
確かに好きな部類には入るだろう。だって一緒の布団で寝ることができるんだもん。嫌いだとできないでしょう?私も鉄平のことは好きだ。一緒にいるのが当たり前になっていて、たまにどれだけ大切な存在なのかを忘れてしまうくらいだけど。好きだっていうのは胸を張って言える。けど、愛美と同じ恋愛対象としての鉄平、となるとまた話は別だろう。そんな想像できないし、そのまた逆もしかり。鉄平は絶対私を恋愛対象としてなんか見ていない。絶対だ。鉄平がなにを考えているのかなんてわからないけど、絶対そうだ。うん。絶対絶対。
「好きじゃないよ!」
「っえ?!びっくりしたあ!」
なにいきなり叫んでんのよ!らしくないわね!ばしっと由紀に頭を叩かれる。結構な勢いで叩かれたから、地味にジンジンする。頭をさすりながら顔を上げると、愛美がニコニコ笑いながら私のことを見ていた。
「な、なにそんな笑ってんのよ」
「いや、だってさあ、名前っていつも飄々としてるけどさ、十分幸せそうな顔してるよ?鉄平くんの話してるときだけだけど、ね?」
そういえば今日は鉄平が泊まりにくる日だった。
ああ、まずい。凄くドキドキしてきた。