小説 のコピー | ナノ
最近悩んでいることがある。それは勉強でもなければ女の子特有の美容関係のものでもない。よくいえば好かれている。悪く言えばストーカー、と言ったところか。ストーカーなんて言うときっと彼は傷付くだろうし、数々の誤解を産んでしまうだろうから、私は彼のお気に入りになってしまったということにでもしておこう。ただ、落ち着かない。
「な、うまいだろ?」
「…うん、まあ」
こくりと頷くと彼の顔はぱっと明るくなって、だろ?だろ?とニコニコと笑う。彼が教室にくるたびに私の口には飴玉が押し込まれる。それはイチゴ味の飴だとかそんな可愛いものじゃなくて、ごろごろとした大きな黒飴で。最初は少しクセのある甘さが苦手だったけど最近ではかなり慣れてしまった。むしろ一日ひとつ食べないとなぜか落ち着かなくなってくる始末。どうした私。この大男に餌付けされたような気がしてなんだか悔しくなった。
木吉は目の前で本日何個目になるかわからない飴をまた頬張る。いやいや、食べ過ぎでしょ。まだ口の中を転がる大きな飴玉を早く溶かそうと忙しく舌を動かすがなかなか溶けない。噛み砕こうにも私の小さな顎では到底無理な大きさである。もごもごと口を動かす私をみて木吉は吹き出しながら笑った。
「リスみてーだな!」
「うるひゃい!そもそもあんたが食べたせたんでひょ!」
「あはは、悪い悪い」
うそつき。悪いとか絶対思ってないだろこいつ。へらへらと笑う木吉を見ながら私はふと初めて会った時のことを思い出す。たしか、廊下の角でぶつかったんだっけ。木吉は身体が大きいから女の私が敵うわけもなく案の定吹っ飛ばされた。
「すまん!大丈夫か?」
「あ、うん。ごめんなさい、ぼーっとしてて」
「イヤ、こっちこそ悪い。俺身体でかいからな」
そう言いながら罰が悪そうに頬を掻く木吉に私は何て言ったんだっけ。そんなに前のことじゃないはずなのにもう忘れてしまったのか。
「「身体が大きいのは悪くないじゃん。カッコいいよ、君」」
「え、」
木吉がいきなり口にした言葉に私は驚く。それは私がさっきまで考えていた問題の答えだったから。目の前のこの男はにこりと笑う。なんで私が考えていることがわかったのかは謎だけど、覚えてたのか。
正直木吉は抜けている。ぼーっとしてることが多いし、口を開けばおかしなことばかりを口にする。日向くん曰く変人だそうだけど全く持ってその通りだと思う。だからそんなことを覚えてくれているなんて思いもしなくて、私はまだなにも言えずにいた。そんな私を見て彼はまた笑う。
「あれすげー嬉しかったんだぜ?お前は覚えてないかもしれねーけど」
「いや…今思い出した…」
彼は驚いて呆然としている私の頭に大きな手を乗せて「ありがとな」と言う。なんか手あったかいし木吉が今まで見たことない顔してるしなんだこれ。
「お前にどうしても俺のことちゃんと覚えて欲しいから、だから毎日来てたんだ」
「毎日こんだけ会いに来てれば嫌でも覚えるだろ?」
俺、お前のこと好きなんだ
(…お前らなにやってんの?)
(あ、日向くん)
(告白したぜ!日向!)
(場所考えろダアホ!!)