えくぼの作り方


「名前。おめぇ、海は好きか?」

 オヤジは私に問いかけた。その大きな手のひらで私の頭を撫でながら。私と一緒に、海を眺めながら。

「大好き。」
「そりゃあ何故だ?」
「それは…。」

 私は返事に詰まった。海が好きな理由、何だろう。それまで、海を描くために動かしていた筆を止めて考えてみる。考えている間もオヤジの頭を撫でる手のひらは動いたままだ。ゆっくりと、穏やかな波に揺られる船体と相俟ってそれはもう心地いい。ちょっぴり眠くなる。自然と閉じかける瞼を必死にこじ開けつつ、目の前に広がる海をじいっと眺めた。海が好きな理由、理由ーー。
 体がふわりと宙に浮く。優しくて大きな手のひらが私の体を抱え、ゆっくりと降ろした。そこは所謂オヤジの膝の間。すっぽりとはまると、オヤジは笑った。そうしてまた頭を撫でてくれる。せっかくオヤジが質問してくれたのに、私の瞼は落ちてくるばかりだ。

「あーっ!名前、お前ずるいぞ!オヤジに座りやがって!」

 そばかすの乗ったほっぺが突然視界に現れる。ぷっくりと膨らんだ頬に、尖った唇。我らが2番隊長エースは、私を羨ましそうな目で見てきた。オヤジはまた大きな声で笑うと、今度はエースを抱え上げる。そうして、彼を私と同様に膝の間にはめた。突然のことに目を丸くしたエースは一呼吸おいてから満足そうに笑った。エースの後ろにいたサッチさんが呆れたように笑う。

「またオヤジんとこに座ってんのか。」
「オヤジが乗せてくれたんだよ。」

 たぶん、船室に行くだろうサッチさんは後ろ手に手を振ってくれた。それが嬉しくて、私とエースはお互いに笑いあう。オヤジも笑っていた。素直じゃねえなあ、なんて笑って。

「ねぇ、さっきの質問の答え浮かんだよ。」
「何だ?」
「みんながいるから。」

 みんなといるから、目の前の海が美しく尊く感じるのだ。視線は海のまま、オヤジの骨ばった人指し指とエースの手を、握る。

「だから、二人とも。心配しないでね。」

 最後の方は涙混じりになってしまった。目の前の海が、雨も降っていないのに滲んでいく。オヤジの笑い声が、やけに響いた。

20180601編集
20110808執筆

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