雨音に包まれる


 船の小窓を粒たちが、サアサアと音を立てて跳ね返る。あっちに跳んだりこっちに跳んだり。そうして跳ねたあとの粒たちは、重力に従って船の床に落ちていく。最後の抵抗なのだろうか。床に落ちても、跳ねた。そんなことが朝から続いている。小窓におでこをくっつけて、あたしはじいっと見つめていた。

「ふふ。」

 声に振り向く。本をめくる音が船室に広がった。この船の考古学者であるロビンは、いつだって難しそうな本ばかり読んでいる。字でいっぱいの、本。

「どうしたの?」
「何でもないわ。」

 ロビンが笑う。頬杖をついて穏やかな笑みを浮かべる彼女は美しいと思った。大人の女性の色気や風格、余裕などなど。どれも私が持っていないもの。小窓から離れる。歩くと床がギシ、と唸った。イスをひいてロビンの隣に座る。甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

「ロビン。」
「何かしら?」
「いい匂いだね。」

 甘い匂い。でも甘すぎるってことはない。香水なのか、はたまた、もとからロビンの匂いなのか。どちらにしろ、いい匂いだ。ナミの、ミカンのような柑橘系の匂いも好きだけど、こういう匂いもいいかもしれない。ロビンは2、3回瞬きをした。そうしてまた笑う。

「あ。」

 にょきり。肩に変な感触。ロビンの腕だった。きれいな指が私の額を小突く。指先はひんやりとしていた。

「ありがとう。」

 私も好きなの。形のいい唇が、ゆっくり動いた。頬杖をついたまま、ロビンは笑う。その笑顔はいつもより子供っぽくて、何だか得した気分になった。

20180601編集
20110824執筆

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