魅了する赤


シャリシャリ。
シャリシャリ。

 意識が浮上する。ぼんやりする頭の中には、何かを刈っているような、はたまた、何かを切っているような。変な音が反響していた。

シャリシャリ。
シャリシャリ。

 ゆっくりと、俺が今、何処にいるのかを確認する。絨毯のもこもこ。ブランケットが体にかけられている。甘い匂い。それが鼻孔をくすぐる。寝返りを打って見上げてみたら横顔が、いつも通り無表情で。膝元にすりよると、音がやんだ。

「起きた?」

 穏やかな声に頷く。細長い指が俺の髪の毛を梳いていった。少し冷たかった指先に体が震える。寝起きだからだろうな、と結論づけて名前の膝に顎を乗せた。生足だったらよかったのに。そんなことをジーンズ越しに考えながらもう一度目を閉じる。上から吐息のような笑いが聞こえた。

シャリシャリ。
シャリシャリ。

 目を開けた。さっきよりもはっきりと形を持つ世界に赤い糸。螺旋状に伸びるそれはこの前一緒に買いに行った皿の上にまあるく形を作っていた。何もないシンプルな白の皿に赤は非常に映える。視線を上げれば名前の白い首筋に赤い印が見えた。赤い糸に赤い印。不思議と悪い気はしない。むしろ広がるのは独占欲と優越感。そんな考えしか出来ない自分に笑ってしまう。ブランケットから腕を出して名前の腰にまわした。それから引き寄せてみる。折れてしまいそう、なんてことはない。柔らかな腹に顔を押しつける。やめてよ、と言われたがやめるつもりは全くない。そのまま目を閉じる。いくら絨毯が気持ちよくったってやはりこっちの方が落ち着くに決まっているのだ。また目を開ける。赤い糸は随分と長くなっていた。切れることなく続くそれに名前は満足気にしている。そんなところも可愛いと感じる俺はきっと末期症状だ。白い皿から糸の端をつまむ。それを口の中に放り込んだ。

シャリシャリ。
シャリシャリ。

シャクシャク。
シャクシャク。

 同じように切り進むナイフの音と俺が食べ進む音が部屋の空気を静かに揺らす。甘くてどこか酸っぱい味だ。そのうち俺の食べるペースが先になる。短くなる赤い糸に名前は眉をひそめて邪魔するな、と言った。とはいえせっかく半分まで食べきったのだ。残りもどんどん食べ進んでいく。ぷちん、と糸が切れた。

「うわ。」
「何だよ。」
「皮剥き、今までで最長だったのに。」

 切れたのは名前のあごあたり。つん、と唇が尖るのを近くで見上げる。赤く熟れた唇がさっきまで口に含んでた物とよく似てるから思わず噛みついてしまった。甘くて甘くて、止められない。下でカランと音がした。ナイフが皿に落ちたらしい。

魅了する赤
20180601編集
20120403執筆

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