白玉ぜんざいのカップを抱えた光とコンビニで遭遇した。 抱えたっちゅうか、うんまあ、抱えとるんやけどな、現在進行形で。しかもなんや、ごっつ俺のほう睨んできよるし。なんもしてへんやん。コンビニくらい俺かて来るっちゅうねん。光が何かを言う前に、俺から喋るべきやろか。なんて? 光お前ぜんざい好きやったんか〜駄洒落みたいや〜あははっ、とか……あかんて。火に油や。そもそもあれや、俺ほんまなんもしてへんのになんで睨んできよるんかわからん。適当に挨拶して適当にレジ並べばええっちゅう話や。そないに俺んこと嫌いやったんならしゃあないけど。ええから早よレジ行けや。俺がいたたまれんくなるわ。すでになっとる。 少しいらいらして、光にとっとと行けやと言おうとすると、先に光が「ちゃいます」と言った。いやいや、意味わからへんて。主語。主語ないやん。よう見ると光の体が小刻みに震えている。俺がいじめとるみたいな図やな、心外やわ。そのまま光の言葉を待つのもめんどい、ということで俺はさくっと「何がやねん」とつっこんだ。光がぼとりと白玉ぜんざいのカップを落とす。抱えている数個のカップ。x-1=5、よってx=6……ってやかましいわ! 「や、せやから、これ俺のんちゃうくて」 「あー、ぜんざい?」 「俺が食うわけあれへんやんこない甘いもんほんまありえへんしちゃいますからこれ」 「……あ、そう」 べつにどうでもええっちゅうか、早よレジ行ってくれへんかな。俺青汁買いに来たんやけど。ちょおそこ邪魔やから。あとぜんざい拾っときや。 「け、んやさんは、なんでコンビニ……」 会話するんかい。いっつも俺が話しかけても無視するとかそっけなかったりするくせに、えらい饒舌やな。俺は青汁が飲みたいんや。ええから。今は会話のキャッチボールせんでええから。 「青汁。家にあれへんくてな、買出し」 「青汁ってうまいんすか」 「うまいでー、今度飲んでみ」 会社員風のおっさんが光と俺を見て、レジに並びかけている光の脇を通ってレジに行った。あーもー早よレジ行けや。何をためらっとるんか知らんけどお前がぜんざい買ってようが青汁に興味持とうがどうでもええねん。今の俺に必要なんは青汁だけやねん。察せ。 「あ、ええです。遠慮しときますわ」 「ほー」 「そんで、あの、このこと」 意味わからんやっちゃな。俺はもう青汁を手にとってレジに行こうとしとるんになんでまだ会話続行すんねや。普段クールやんけ。ここでそないフレンドリーに接してもろても困るわ。ちゅうか青汁握りすぎて温うなってきたやろ。買ったらすぐ飲み干すつもりやったんに、これ家で冷やしてから飲まなあかんな。 「このこと?」 とりあえず温くなった青汁はどうしようもないから、突っ立ったままの光に話を促す。あ、ぜんざい拾ったんや。 「俺が、これ買うとったことです」 「白玉ぜんざいを買うたっちゅうことやろ?」 「……言わんとってくださいよ」 「はいはい、言わんて」 なんや、それだけか。べつに白玉ぜんざいくらい誰が買うてもええやろと適当に流すと、光は目を丸くして俺を見る。 「シャレ、とか」 「あ?」 「俺がぜんざい買うたら、シャレんなるとか言わへんの」 「最初に思うとったけど、どうでもええわ」 せやからもう心配せんでレジ行け。お前が何を心配しとるんか知らんけど。大方自分がぜんざい買うとったんが恥ずかしいとかそんなんやろ。どうでもええねん。俺かて牛スジ好きとか青汁好きとか言うと驚かれるしな、慣れとるわ。 光がぜんざい好きやったんは意外やけどなー、と言うと、ちゃいます、とまた返された。いやいやお前な、そんだけぜんざい抱えとってまだ否定するんか。ええけど。もうめんどいわ。 俺がレジに並ぶと、すぐ隣のレジに光も並んだ。105円になりますー、ちょうどお預かりしますー、ありがとうございましたー。俺はとっとと会計を終えたものの、光はどうやら金が足りなくなったらしい。50円足りないっぽい。財布から50円玉を出してレジに出すと、光がびっくりした顔で俺を見た。レジのお姉さんはお構いなしに会計をして、レシートを出す。あーあかん。青汁温すぎや。 「……どうも」 コンビニを出ると、光が下を向いたままでそう言った。あーうん、と返答すると、今度返しますんで、と律儀な答えだ。いらんし。50円やん。 「いや、会計もたついとるんが気に食わんかっただけやから」 実際、理由はそれだけやったし。あと後輩やから、っちゅう程度で。こないに光が恐縮するようなことでもあらへんと思う。 「けど」 「ええって言うてんねん。ほなな」 青汁。青汁。冷やさなあかん青汁。光が何か言おうとしていたのを遮って、俺はさっさと家に向かって歩き出した。どうせ明日になれば、また光はいつもみたいにクールで飄々とした天才に戻るんやろな。俺の前でこない取り乱したことはさっぱり忘れて。ええけどなべつに。走って帰るのもだるくなって、てくてくと歩く。後ろから足音も聞こえる。なんや、走っとるときは気づかんけど、後ろからの足音ってけっこうこわいねんな。気になるわ。自然と早足になる。すたすたすた、みたいな感じや。すると、足音もスピードを上げたのか少し速めになった。なんやねん、と思ってなんとなく振り返ったら、そこにはばつの悪そうな顔をした光がおった。 「……なにしてんねん」 「……俺、こっちに用あるんですわ」 「あ、そ」 せやったらさっきそう言えや、と思った。そのまま立ち止まっていると、光も動かずに立ち止まっている。しかたがない、俺が光のほうまで数歩の距離ではあったけれど、つめてやった。 「俺んちあそこの公園曲がったとこやねん」 「……そうすか」 「お前ん用事ってなに?」 「……」 同じ方向を目指している者として訊いたつもりやったんやけど、光は顔を真っ赤にして、あー、とかえー、とか言い始めた。彼女かもしれん。ええなあ彼女、おるんか。俺もほしい。野暮やったなあ、と言うと、あ、いや、とまたどもったような返答だった。じゃ、と俺は今度こそわかれようとする。その俺の右腕を、光が引っ掴んだ。 「うおっ」 「これ!」 はあ? と思いつつ右手に押し付けられたものを見る。白玉ぜんざい。さっきの6つあるカップのうちの1つやな。うん、いや、なんやねん。受け取れっちゅうことでええんか。 「あげますんで!」 そう言って光は逆方向に走って行ってしまった。ちゅうか、用あるんやなかったんか。 わからんなあ、と思いながら家に帰って、青汁とぜんざいを冷蔵庫に入れて冷やしてから食べた。案外いける組み合わせやった。 0531 |