決して、意図してこうなった訳では無い。

そうした願望が無い、という訳でも無いのだが、だからと言って今すぐどうこう等と考えてもいなくて。

つまり何が言いたいかと言えば。


「これは、その、つまり、不可抗力でして…」
しどろもどろになる賈クに、対して曹操は可笑しそうに笑う。
「何をそんなに焦っているんだ?お前は」


それは、献策中の出来事だった。
夢中で語る賈クは竹簡片手に曹操に詰め寄り…何かに躓いた拍子に倒れ込み、結果、曹操を押し倒す形となったのだった。


「まぁ落ち着けって」
鼻を摘まれて賈クは漸く我に返り、申し訳ありません、と曹操の上から退こうとしたのだが、
「と、殿?」
がっちりと片腕を掴まれていた。
「別に、このままでも良いだろ?」
悪戯っぽく笑う曹操に賈クの心拍数が急上昇する。
「い、いやしかし、このままでは非常に不味いと申しますか…」
「何が、どう不味いんだ?」
「どうって…。殿…もしかして、解っていて言っておられるのですか?」
「さて、俺には何の事やら解らんが」
妖艶な笑みがその口許を飾る。
「この千載一遇の好機を賈クともあろう男が逃す筈は無いよな?」
伸ばした指が賈クの唇をなぞるのをしばし呆然としていたが、
「賈ク?」
誘う様に名を呼ばれ、賈クはその唇に夢中で口付けた。
「…ん…っ」
合間に零れる吐息すら逃すまいと深く口付けるのを、曹操が舌を絡ませて更に誘う。
「殿…、宜しいのですか?」
まだ日も高いうちから、しかも人払いもしていないというのに。
「駄目だと言ったら、お前は止めるのか?」
濡れた瞳が賈クをもどかしげに見詰め、止められる訳等無いのに、と言外に語る。
「良いから、お前は曹操の事だけ考えていろ」
「…御意」




正直、賈クは自分にそれ程性欲があるとは思っていなかった。
それ以上に戦場で軍略を巡らせている方が己の心を何処までも昂揚させた。

「んっ…ぁ、…あぁっ」
けれど、己が躯の下で甘く鳴く主に募るのは、どうしようもない程の情欲。
「殿…っ」
それから、限りない愛おしさ。
「賈クっ、…あっ、…も…っと…っ」
繋がった所から溶けあって一つになりたい、等とまるでらしくない事さえ思ったりもする。

これが恋に溺れるという事なのだろうか。

乞われるままに律動を速めれば、その声は甘さを増して。
「あぁっ、んっ、いい…っ、ああっ」
「…っ」
「あっ、も…っ、あぁ─っ!」
曹操が達する締め付けに賈クも限界を感じて中の物を抜こうとしたのだが、
「い、からっ、中に…っ!」
そう言われ両足を腰に絡ませてくるのに抗える筈も無く。
「と、殿…っ、くっ…!」
賈クはそのまま中に熱を吐き出した。
「っ、あぁ…、ぁ…っ」
流れ込んでくる体液に曹操の躯がまた反応する。
「っ殿…、大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込む賈クに曹操は薄らと瞳を開けて、
「いっ!?」
近付いてきた所にゴンッと音がする程の頭突きを食らわせた。
「な、何をなさるか!」
額を押さえながら涙目の賈クに、曹操はふいと横を向いてしまう。
「殿…?」
「足りない。全然足りないぞ、賈ク」
今の情交に満足出来なかったという事なのか。
拗ねた様に呟く曹操は、だが賈クの思惑とは違う様で。
「お前って、案外堅いよな」
「そう…ですか?」
「俺が誘わんと手を出してこないじゃないか」
「そう…ですね」
「…中で出さないし」
「そっ!それは、殿のお体の事を考えてですね」
「俺はそんなに軟じゃない」
中で出される方が好きだし、等と言われて賈クは狼狽える。
「なぁ、お前は俺の事ちゃんと好きだよな?」
「も、勿論です!中華広しと言えど、これ程迄に殿をお慕いしているのはこの賈クを於いて他には居りません!」
勢い込んで言う賈クに相変わらずの自惚れっぷりだな、と苦笑して、
「だったら、もっと曹操を欲しがれ」
俺はもっと求められたい、と曹操が強請る。
賈クが曹操に対して受動的なのは、主従関係にあるから許しを得られなければ触れられない、という思いが根底に有るからだった。
それとも、色事に不得手な為、ただ単に手を出しあぐねていただけなのかもしれない。
どちらにせよ、その消極的な態度が主の不興を買ったのは間違いない様で。
「殿の御意思を汲めぬとは、この賈ク、一生の不覚に御座います」
申し訳ありません、と殊勝に詫びる賈クの鼻を曹操が再び摘む。
「…怖いか?俺に溺れるのが」
「それは…」
怖くはない。
賈クが何より畏れるのは曹操を失う事だ。
それに。
「もう、疾うの昔に溺れておりますので」
「そうか?」
そうは見えんのだがな、と少々不満顔の曹操に賈クが再度詫びつつ気恥ずかしそうに切り出す。
「それで殿、早速なのですが」
「ん?」
「もう一度…宜しいですか?」
未だ中に居座っているものが猛りを取り戻してきているのに気付くと、
「だから、いちいち聞かずとも良い」
口を尖らせてから、曹操はそれはそれは蠱惑的な笑みを浮かべる。
「存分に曹操を愛せよ」
その表情に眩暈を覚えながらも、乞われるままに賈クは愛する人に溺れていった。


















■■■

賈操で裏を書くぞ!と意気込んで書いたものです(苦笑)。

『うっかり殿を押し倒す賈ク』(笑)をテーマに軽いノリで書くつもりが微妙にシリアスチックになってしまったり…(汗)。

てか、賈クが何やら乙女で済みません。


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