夜も更けた頃、横になり殆ど眠りに落ちていた夏侯惇は自室の扉が開く気配に神経を尖らせる。
近付いて来るのが良く知った気配であるのに気付くと警戒を解いたのだが。

「っぐはっ!?」

躊躇する事無く夏侯惇の上に勢い良く跨がった曹操はにっこり笑うとこう言い放った。

「惇!夜這いに来たぞ!」
「…はぁぁ!?」

今、何て言った?夜這い?
…こいつ、寝ぼけてるのか?

「孟徳、奥方の室は反対だぞ」

やれやれ、と身を起こし呆れた様に言ってやれば何故かむっとした表情の顔を近付けてくる。

「別に寝ぼけてもないし間違ってもいない」

では本当に夜這いに来たとでも言うのか。

…言うんだろうな。

どうしたものかと思案していると更に顔が近付き唇が触れてきた。

「ももも孟徳!?」

思わず勢いよく後退る夏侯惇に曹操は拗ねたような表情を見せる。

「嫌なのか?」
「い、嫌というか、その…」

壁を背に冷汗をかきながら現状を打破する策を必死に練る。

「と、取り敢えず、落ち着け」
「俺は充分落ち着いている」
「そうか、しかしだな、俺にも心の準備ってもんが…」

何だ、心の準備って。

我ながら錯乱してると呆れていると可笑しそうに笑う気配。

「そんなに怖がらなくても、別に取って喰いはしないよ」

打って変わって楽しげな様を見せるのを、からかわれていたのかと夏侯惇は苦々しく溜息をついた。

「それにしても…心の準備とは、また生娘の様な事を言うんだな」

たまに可愛いよな、等とほざきやがる。

「巫山戯た事を言っとらんと、さっさと帰れ」
「巫山戯てもいないし帰るつもりもないぞ」
「何だと?」
「あぁ、お前は何もしなくていいから」

寝ていてくれれば俺が全部するから、と満面の笑みで喜々として言う曹操に夏侯惇の思考が一瞬停止する。

全部する?するってナニをだ!?

「孟徳!」

叫んで、寝間着の腰紐に手をかけていた曹操を躯毎勢い良く引き剥がす。

「…俺の事が嫌いなのか」

怨みがましい視線が真っ直ぐ隻眼に向かう。

「そんな事は無い!…ただ、その、こういう事は済し崩しではいかんだろう」
「…俺はお前が好きだ。お前も俺の事が好きだ。…それだけじゃ理由にはならないか?」

訴えかけてくる眼差しに悲しみの色が滲んでいて、一度は引き剥がしたその躯を夏侯惇は再び引き寄せ抱き締めた。

「俺はな、孟徳、お前がこの世で誰よりも何よりも大切なんだ」
「…だから手を出さないのか」
「と言うより怖かったんだな、多分」
「怖い…?」

今の関係が壊れてしまうのが。

欲望のままに彼を求める事が酷く良くない事の様に感じていた。

「変化を、畏れたのか」
「俺はただ、ずっとお前の傍にいたいだけだ」
「…何も変わらないよ、惇」

ぎゅっと抱きついてきた曹操が嬉しそうに囁く。

「お前がそう想っていてくれる限りな」
「そうか」

優しく髪を撫でていると、曹操が何やら楽しげな表情の顔を上げてくる。

「仕方が無いから今回は諦めてやる」
「そ、そうか」
「ほっとするな」

一瞬、むっとしてからまた満面の笑みを浮かべて、

「次はちゃんと抱いてもらうからな!」

と、声も高らかに宣言しやがった。
再びやれやれと思いながら、夏侯惇はその躯を抱き締めたまま寝台に横になり布を被る。

「惇…?」
「今夜は此処に泊まってくんだろ?さっさと寝ちまえ」

それは精一杯の照れ隠しなのだが、まぁ多分お見通しなんだろうな。
だが奴は意外にもこんな事を言う。

「お前は狡いな…。傍にいるだけでこんなに安心する…」
「な、何言ってやがる!…孟徳?」

そして、驚いた事に既に眠りに落ちていた。

「まったく…」

穏やかに眠るその表情に阿瞞と呼ばれていた頃の面影を見出だして、夏侯惇は愛おしさを募らせた。
















■■■

こんなんでも一応惇操です(汗)。

コメディーなノリで書いてたのですが、途中何故かシリアスっぽくなったりしつつも、結局はいつも通りの激甘に仕上がりました(苦笑)。

とにかくこの2人は絆がとても強くて深い感じなので、例えば物凄い喧嘩をしてもそれすら楽しんでしまう、とか。
…良く分かりませんね、すみません(汗)。

と、いう訳で、次は裏になる…のかな(苦笑)?



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