「賈ク」
「何です?」
「何でもない」
執務中にふらりと現れた我が主は、隣に寝そべり名を呼ぶ。
「賈ク」
「はい?」
「…何でもない」
暫く間を置いてはその繰り返し。
常日頃から何を考えているか分からない、だがしかし愛しき我が殿の深意を探りたいのは山々なのだが、いかんせん執務が押しているので手が離せない状況であるからして、名を呼ばれても顔を上げる事すら出来ずにいた。
「…賈ク」
とはいえ、その声の調子から察するに段々と機嫌が降下していると思われたので賈クは漸く主の方に目を向けた。
「殿、この賈クに何用で参られたのですか?」
視線を合わせると案の定不機嫌そうな眼差し。
「…もういい」
それから、ふぃっとそっぽを向いてしまった。

…分からん、全くもって分からん。

そもそも、こんなに忙しいのも元を糾せば殿のせ…いや、御蔭なのだが、そんな素振りは全く見せる事もなく。

そういえば殿と顔を合わせるのはどれ位振りだろうか。

「なぁ」
振り返る事無く曹操が問い掛けてくる。
「お前、俺の事好きだよな?」
「は?は、はぁ…」
いきなり何を言い出すのか、この人は。
「物凄〜く、好きだよなぁ?」
「ええ、まぁ…」
改めて問われると少々照れるが、まぁ確かに曹孟徳という男に心酔しているのは間違い無く。
それこそが俺が此処に居る理由でもある。
再びこちらを向いた殿は何か言いたげな表情をしていたが、やがて拗ねたように「賈クの朴念仁」と呟くとふて寝を決め込んでしまった。

…まさかとは思うが、いやしかし…。

「殿…構って欲しかったのですか?」
「…」

当たりか。

時に超越的な言動をする傍ら、時に童のような表情を見せる事もある。
本当に不可思議で不可解で、故に日々惹かれて止まない。

「殿」
「…何だ」
「触れても、良ろしいですか?」
「…好きにしろ」
相変わらず向こうを向いたままの、殿のその髪にそっと触れる。
柔らかな髪が優しく指に絡み付く。
「殿、賈クは殿のお傍に仕える事が出来て幸せでございます」
静かに囁くと微かに笑う気配がした。
「…お前がそんなに無欲だったとはな」
勿論、この程度で満足等してはいない。
けれど今は。
「この幸せが少しでも永く続けば、と願っております」
本当にらしくないな、と笑いながら振り返る曹操の面差しは、何処までも優しく穏やかだった。













■■■

初蒼天文、まさかの(?)賈操でした(笑)。

曹操様を文章で表すのはやはり至難、でも楽しいです。
賈クさんの一人称、最初「私」にしていたのですが、原作読み返したら「俺」→「わし」になってたので「俺」の方にしてみました。


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