その夜、張遼はなかなか寝付けずにいた。
また郭嘉の元へ訪ねて行こうかとも思ったが、あまりしつこいと本気で嫌われそうなので一人手酌に酒を飲む。
他人の気持ちを推し量る自分なんてものに張遼は苦笑した。
尤も、張遼にとって郭嘉はただの『他人』では無いのだが。
特別な存在。
張遼の武をぶつけて競う相手では無く、その武を預けるに値する男。

それだけ、なのだろうか。
ふと思う。
こんなにも求めてしまう、この激情。
いっそこの腕に搦め捕り、誰にも触れさせぬ処に閉じ込めてしまいたい衝動すら覚える事もある。

そういえば。

べた惚れなんだな、と曹操に笑われた事があった。

あれはまだ張遼が郭嘉に手を出す前の話。

(あの方には全てお見通しなのか…)

とにかく、郭嘉に対する想いが尋常で無い事だけは確かで、故に張遼はその感情を抑えようと思っている。
それは、ともすればその大切な存在を壊しかねないからなのだが、当の本人はそういった扱いに憤慨するのだから張遼としては嬉しい半面困ってもいた。

そうしてその愛しい存在を思い浮かべ優しい笑みを浮かべていると、部屋の前に人の気配があるのに気付いた。

音も無く開かれた扉からあらわれたのは正に今思い浮かべていた郭嘉その人で。

「…何故、起きている」
こんな夜更けに無躾に訪問してきた自分は棚上げにそんな事を言う郭嘉に張遼は苦笑う。
「起きていたら悪いのか?」
「悪い」
そう言い放ちずかずかと張遼の隣まで歩み寄ると郭嘉はその隣に腰を下ろした。
それから、何を言うでも無く郭嘉はただそこに居るだけで。
「何か用があったんじゃないのか?」
「…別に」
問い掛けてもぶっきらぼうな返事のみ。
さてどうしたものか、と張遼が思案していると、
「気に入らんなら出て行けと言えば良いだろう」
郭嘉がぽつりと呟いた。
その真意は解らぬままだが、張遼は郭嘉の肩を抱き寄せて笑う。
「愛する者が訪ねてきてくれたのに追い出す訳なかろう」
その言葉に怒るでも無く照れるでも無く、
「…俺も好きだ」
憮然とした表情で郭嘉が言う。
「………え」
茫然とする様をばつが悪い顔で見詰めていた郭嘉が、「帰る」と立ち去ろうするのを「待て待て」と張遼は慌ててその腕を掴んで引き止めた。
振り返るのを有無を言わさず抱き締めると、特に抵抗する事は無かった。
(酔ってる訳では無い…んだよな?)
「…夢を見たんだ」
「夢?」
「あんたが死ぬ夢だ」
「それで確かめに来たのか?」
「そうだ、悪いか」
「悪くない、全く悪くない」
もはや投げやりな物言いに張遼は声を立てて笑った。
「もっと確かめてみるか?」
そうして誘いをかければ、何処か不機嫌そうな表情で見上げてきた郭嘉が口付けてきた。
「…っ、本当に腹立たしい」
その合間、忌ま忌ましげに呟く。
「俺ばかりが、振り回されているみたいで」
「…」
その言葉に今度は張遼が憮然とした表情になって、
「張遼…?うわっ!?」
抱き締めていた身体を抱え上げ寝台へ投げた。
「おい、何をする―」
「いや、あんたが存外分かっていない様なので教えてやろうと思ってな」
覆い被さってくる男は笑顔ではあるが、その目は決して笑ってはいなくて。
「な、何をだ?」
顔を引き攣らせながら後退る郭嘉の肩を張遼が掴む。
「俺がどれだけあんたの事を愛しているか」
その身体にな、と雄の表情で笑みを浮かべる張遼に成す術も無く、郭嘉は夜が明ける迄その身に男の愛情を受けたのだった。



















■■■

えと、何かもう済みません(滝汗)。

二人はお互いとっても愛し合っているのですが、お互いそれには気付いていないという…そんな感じです…。



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