本日の執務も無事に終えて荀イクが自室に戻ると、
「…殿?」
主、曹操が寝台で眠っていた。
手にしていた竹簡を机の上にそっと置くと、荀イクは彼の人の元に静かに歩み寄る。
その表情はすっかり寝入っているようにも見えるが。
(殿の事だ、起きているに違いない)
油断は禁物、と思いつつも荀イクはその美しい面差しに見惚れてしまう。
まぁ寝顔等なかなか見られるものでも無いしな、と無遠慮に見詰める事にしたのだが、しかし程無くその寝顔に触れたい衝動に駆られてしまう。
好きな人が目の前で無防備に寝ていれば、それは手も出したくなるというもので。



荀イクの気持ちに、曹操は応えてくれた。
だから、触れたとて咎めは無い筈だ。
寧ろ曹操は待っている節が有る。
ただ、圧倒的に足りないだけ。
荀イクの、勇気が。



「殿…」
身体を繋げたとして、それで何か変わるなんて荀イクとて思ってはいない。
寧ろ、より愛が深まるのでは、とさえ思っているというのに。
「荀イクは、殿の事が大好きなんです」
なのに、こうして触れる事に躊躇ってしまう。
何と情けない事か。
このままでは曹操に愛想を尽かされてしまうかもしれない。
そう考えるに至り、荀イクは恐怖に襲われた。
(それだけは絶対に嫌だ─)
見詰める先の穏やかな面立ちに、募るのはただただ愛おしさばかりで。
思い切ってその頬にそっと触れてみる。
その髪に、閉じた瞼に、それから薄く開いた唇に。
(あぁ、本当にこの人が好きだ─)
感極まった荀イクの瞳から涙が零れる落ちるのを、曹操の指がそっと拭う。
「…やっぱり起きておられたんですね」
照れ臭そうに笑う荀イクに、曹操は半身を起こして苦笑いする。
「お前の百面相は大層面白かったんだがな」
それから、神妙な面持ちで荀イクを見詰める。
「殿…?」
「お前は考え過ぎだ」
そっと、抱き寄せられる。
「いらないんだよ、荀イク。俺を好きだという想い以外はな」
そう微笑む曹操は何処までも甘くて、優しくて。
「あいっ…」
情け無くも荀イクの瞳から再びぽろぽろと零れるのを、荀イクは泣き虫だな、と笑って曹操もまたその雫を拭ってくれた。
「…殿」
「ん?」
「口付けても…良いですか?」
未だ涙目で顔を真っ赤にしながらも、勇気を振り絞り荀イクが尋ねると、
「駄目だなんて言う訳無いだろ」
少し拗ねた様にそう言ってから曹操は瞳を閉じた。
それでも、恐る恐るといった感じで荀イクはそっとその唇に口付ける。
触れた所から想いが伝わってしまう様な、そんな錯覚に陥ってしまって。
(ならばいっそ、全部伝われば良いのに─)
そう想いを込めながら、荀イクは何度も口付けを繰り返したのだった。


















■■■

相互記念に書かせて頂きました蜜虫様に捧げるイク操です。
…逆でも大丈夫の様な気もしないでもないですが(滝汗)。

少しでも気に入って頂ければ幸いですf^_^;

それでは、相互リンク有難うございました!
これからも宜しくお願いします
o(^-^)o


戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -