ある日見つけたのは背中に残された赤い傷痕だった。わたしが引くものとよく似たそれを見つけてざわりと胸のおくで何かが騒ぐ音がした。背中にそれを持つ本人は、わたしの瞳を見つめて人を殺しそうな目をしている。とだけ言った。今この視線が貴方の心臓だけを撃ち抜いて綺麗に身体を残してくれたらきっと永遠に一緒なのに。喋らない貴方はきっとつまらないからそんなことはしない。しかし、どろどろとした感情が溢れて止まらない。彼が尋ねてきて、わたしが引いた赤の下に別の赤い線が引いてあるのを見つけてまたどろどろとあふれる。

「今日は一段と、目が憎んでるぜ」

「え、」

「最近お前の目は本当に人を殺す勢いだ」

毎回彼は決まってわたしの目が人を殺すと嘯くのだ。熱を孕んだ視線は恋をしているとも形容できるが、わたしの目は確実に命を捕えている、と。

「女に会いに来てる筈だが、戦場にでも来た気分だ」

「それは、政宗様にとっては良い場所でしょう」

「Ha、確かにな」

異国語混じりの声がわたしの耳を潤す。見つめる隻眼がわたしの全身を潤して、抱き締められてこころが潤う、はずだった。抱き締められて見えた、首筋についた赤いあと。背中のものとは違うそれは赤い花弁に似ていて、わたしは潤った目の奥が焼けるのを感じた。

「そんなに殺してぇか?」

上から降ってきた声はまるでわたしを挑発するようにくくく、と低く笑った。凍り付いたわたしの身体と反するように目は熱く、どろどろとした感情は胸の奥からマグマのようにあふれた。

「政宗様は、」

「Ah?」

「わたしに殺して欲しいのですか?」

顔を上げて政宗様を見つめてみる。そして分かった。ああ、あれが殺すような目だと。熱と、狂気を孕んだあの目。わたしと同じ、あの目だ。

「殺したい程、愛して欲しいんだよ」

わたしの背を這った武骨な指が赤い線を引く音を聞いてわたしの心は少しだけ潤った。

「kill me、baby」

貴方が紡いだ異国語の意味を理解する前に、さらなる赤い線を彼の背中へと引いた。全てを、掻き消すように。



陶器肌に紅い爪痕
(滲む鮮血色の誘惑)


Ewigkeitさまに提出
120103


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