第三話 光のそと

-eclipsar-

祈るような気持ちで、静かに目を閉じた。
割れた痛みが、幾分か軽くなる。

――そこにおるだけでも、しんどいんやで。
そう言っていたのが思い出されて、成程な、と納得せざるを得なかった。

何かを見るのも、聴くのも、一苦労だ。
ましてや片割れしかないのだから、尚更に。


――誰かが私を呼ぶ声が、遠くから聴こえる。
「銀翅。ここにおったんか。」

(ああ)。――と応えたが、声になっていたかどうかすら、曖昧なままだ。
恐らく十六夜には、すべて解っているのだろう。聴こえる声は普段通りで、落ち着き払っている。

「…、ほら、これでええやろ。」
その言葉と共に、頼りない意識がはっきりとした。

「…、有難う。」
「あんたに言うて貰わんと、はっきりしたことが解らんし。」

「ああ、そうとも。」
「何とのう想像はつくけど、一応聞くわ。…何があったんや。」

「其処に見える岩の印を、結び直そうとした。呪を唱えた本人が要の印だ。…平たく言うと、飲まれてしまったんだよ。」
「…あんたは?」

「まずいと思い、咄嗟に逃れたらこの様さ。…我が肉体と(はく)は、彼方へ行ってしまった。」
炎の上がる村を指し、苦笑気味に言った。

「…それにしても、よう逃れたな。」
「からくも、といった有様では、褒められたものではないよ。――このように残ったからといって、もはや何が出来るわけでもないのだし。」
苦い笑いは、自然と己に向けられていた。

「…そんで、あんたはどうしたいん?」
「――村へ、行く。」

「は?」
「私が僅かにでも惑ったから、こうなってしまったんだ。私の不始末は私が片をつけなければ。…共に果てようとも、構わないさ。」

「何もできひん、って思ってんのに行くんか?」
「…私ひとりでは、ね。――君も共に、来てくれないか。」

「…。今から行って、何が出来るんや。もう村は跡形も無いやろ。」
「私は村を護れなかった。…けれど、あのまま放っておいてはこの山もただでは済むまい。そうなれば、傷付くのは君だ。」

十六夜は、考えるように眼を閉じる。少しして、うつくしい眼を開くと、何の気もなく言った。
「…。わかった。とりあえず、行こか。」

「有難う。…急ごう。」
静かな笑みを打ち消し、闇の渦巻く其処へと向かった。

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