第16話 狐と面

-irreal-

俺は、蔵から面を取り出し、すぐさま狐のもとへ持って行った。
狐も俺から面を受け取ると、すぐさま面を顔につけた。

…と、何故か「おお…」と感嘆する父の声。
二階堂先輩も驚きの表情を浮かべている。…これは、ひょっとして?

「…どや、あっきー。これでええか?」
「…! ありがとうございます。あなた様のお姿を拝謁出来、感激至極に存じます…!」

なんと…。どうやら、面をつけた状態ではあるが、狐の姿が見えるようになったらしい。
元の使い方はこちらの方がしっくりくるような気もする。…だから、狐の面なのかもしれない…。

狐は、つい、と俺の方へ視線を動かすと、
「うちが持つには邪魔やったしあんたらのとこに預けたけど、捨てんと預けといて正解やったみたいやわ。」と言い、けらけらと笑った。

と、今度は感激し通しの父を見、何気なく言った。
「あー、そんで、宵夢はどないする?」

「…どう、とは?」
「ちょっとした怪我やさかい、ほっといても治るけど。何やったら、うちが手伝ってやってもええで?」

「…!? なぜまたそのような事を…?」
「気にせんでええ。ただの気まぐれやし。…せやなぁ、敢えて理由をつけるなら、この面を大事に持っててくれた礼、っちゅーことでもええけど。」

「…よろしいのですか?」
「かまへんよ。どうする?」

父は少しの間思案していたが、ふ、と笑うと俺に向かって言った。
「……、先程の様子からすると、どうやら諒への礼のようだから、諒がしたいようにすると良い。」

「俺…ですか。」
狐の方を見る。…表情は見えないので何とも言えないが、止めない様子からすると俺が決めても良い事らしい。

「…はい。…じゃあ、お願いします。」
少し気後れしつつも、俺は狐に言った。

「分かった。ほないこか。」
こちらの様子とは裏腹に、素っ気なく返された。…仮に断っていたとしても、こんな感じなんだろうな…。

俺の言葉を受けて、狐は姉のいる部屋へ向かおうとしたが、不意にその足を止めて、振り返った。
「…あ。せや、二階堂、ゆーたか。」

「…はい。」――不意に名を呼ばれた先輩は、少し緊張した面持ちで応える。
「あんた、下の名前は?」

「…、郁馬(イクマ)、と申します。」
「ふ〜ん。ええ名やな。……。」
何故か先輩の下の名を尋ねたかと思えば、少し考えるような仕草をする狐。――ひょっとすると、また何か渾名を考えているのかもしれない。

先輩もまた父のような渾名をつけられてしまうのだろうか…と考えていると、狐は先輩に対して心なしか楽しげな声色で疑問を投げかけた。
「あんた。…ここへきて、いきなりこんな目に遭うたけど。どう思った?」――どうやら、考えていたのは渾名ではなかったらしい。

「そ…そうですね…。こんな時代にこんなこともあるのだな…と思いました。」
「…ほーか。…まぁええか。」――狐は、先輩の言葉で何かを納得したようだ。

狐は、一呼吸置いてから、やはり楽しそうな声色のまま続けた。
「…どや、あんたも来るか?」

「え?」
「…宵夢の部屋。見てみとうないか?」

…なるほど。既にそこまでをお察しでしたか。
「…!!?」――先輩は、思わぬところからその話を振られて、心底驚いているようだ。…当たり前か。

「俺の部屋でもありますけどね。」
俺は、とりあえず釘をさしておいた。

「ほんまに、わっかりやすい奴やなぁ…」――けらけらと狐は笑う。
「…。とにかく、行きましょうか」――父は、先輩を止めるでも促すでもなく、俺達に向かって言い、立ちあがった。

「はい。」
俺も立ち上がる。

「………。…………」
先輩も、躊躇うような素振りを見せたが結局は立ち上がった。

「ふふふ…。」
狐だけが変わらず、何故かとても楽しそうにしていた。


部屋に着くと、母が姉の看病をしていた。
狐の姿を見て驚いたようだが、狐は特に気にせず、飄々としたまま姉の元へ向かった。

どれどれ。と狐は姉の様子を見る。
その間に、俺と父とで母に説明をし、母は平静を取り戻した。

「…。お狐様。宵夢の具合はどうなのですか?」――父が尋ねる。
「さっきと変わらへんな。ま、すぐに様子が変わる方がおかしいけど。――ほな、いくで。」

そう言うと、狐が姉の額に手を翳した。
俺達は半ば反射的に沈黙してしまう…。

狐は目を閉じ、集中している。――と、それにつれひとつ、ひとつと狐火が浮かびあがった。
先輩の感嘆する声が聞こえる。…が、俺や両親はじっと姉を見つめることしかできなかった。

狐火のひかりで室内は蒼白く照らされる。
やがて、それらが収まると、狐が目を開け…。

「…はい、お終い。明日には全快やから。」
俺達は、狐の言葉に大層驚かされた。

「ありがとうございます…!」――俺と父は、同時に同じ言葉を発する。
「どういたしまして〜。」――狐は、礼を言われるとさも嬉しそうにカッカッカと笑った。

姉は、先程とは打って変わって安らいだ表情で眠っている。
狐は、姉の顔を見て、うんうん、と頷くと、「ほな、つかれたし帰るわ〜」と言い、消えてしまった…。

両親はほっと胸を撫でおろし、先輩はといえば、何故か変わらず緊張している様子だ。
…大方、ここが姉の部屋ということで今更ながら緊張しているのだろう。

早速ひと騒動起こってしまったが、どうにか無事に済んだようだ。落ちついてから先輩も帰宅し、俺達は夕飯を済ませた。
両親と話し合い、念のため、明日は俺も姉も、安静にしておくようにと言われた。…まぁ、当然だよな。

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